2025年3月15日土曜日

遺伝子改変ブタ腎移植アップデート 中国でも始まった Gene-Modified Pig Kidney Transplantation Update, Also started in China.

2024年3月16日 MGH & eGENESISは遺伝子改変ブタ腎臓のヒトへの移植に世界で初めて成功したと発表
https://wired.jp/article/genetically-edited-pig-kidney-human-transplant-xenotransplantation-massachusetts-general-hospital/
日本人が執刀しています(河合達郎先生)
Xenotransplantation of a Porcine Kidney for End-Stage Kidney Disease.
The New England journal of medicine. 2025 Feb 07; doi: 10.1056/NEJMoa2412747.
https://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa2412747
日本語解説
河合達郎先生についてはこちらhttps://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/blog/kurofunet/tkawai 

2024年4月12日 異種腎移植レシピエントが残念ながら、拒絶反応や異種感染症以外の原因で患者死亡と発表
移植とは無関係とのことですが詳細は未発表です 
Recipient of first pig kidney transplant dies nearly 2 months later The hospital said there was no indication the passing was due to the transplant. ByRiley Hoffman May 12, 2024, 10:46 AM

その後、遺伝子改変ブタの開発は世界的な開発競争が行われています
eGENESISのほかにはユナイテッド・セラピューティクス社が同様の研究開発をおこなっています

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™は10個の遺伝子を改変した遺伝子改変ブタを作成。
ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™の前臨床試験はジョンズ ホプキンス大学の山田和彦とアンドリュー M. キャメロンによって行われました。
バージニアにある臨床グレードSPF環境の遺伝子改変ブタ飼育場では年間125臓器の出荷が可能で、現在、ミネソタ州にさらに建設中だそうです。
2024年11月25日 ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を移植する初の異種腎移植に成功しました。

レシピエントはアラバマ州に住む53歳女性 Towana Looney
母親に生体腎移植ドナーとして腎提供後、妊娠高血圧を契機として腎不全となり透析導入されていたが、クロスマッチ陽性のために腎移植が受けれない状況であったそうです
UKidney™異種腎移植はNYU Langone HealthのRobert Montgomeryにより執刀されました
術後2ヶ月、腎機能は問題なく、異種感染の兆候もないということでした


2025年2月3日 United Therapeutics Corporation (Nasdaq: UTHR)からUKidney™ 異種腎移植の臨床試験計画がFDAの承認を得たとHP上で発表されました
2025年半ばに開始され、当初は6例、その後は60例まで、第 1 相/第 2 相/第 3 相複合試験 (フェーズレススタディ)を行う予定のようです

2 つのグループにおける UKidney の安全性と有効性を評価することを目的としています
対象患者は年齢 55-70 歳、ESRD の診断、少なくとも 6 か月間の血液透析であることと下記のいずれかの要件を満たしていることです
①医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと評価され、判断されたESRD患者
②腎移植の待機リストに載っているが、5年以内に脳死腎移植を受けるよりも死亡するか、移植を受けられない可能性が高いESRD患者

有効性エンドポイントには、参加者の生存率、UKidney のグラフト生存率、糸球体濾過率、および移植後 24 週間の参加者の生活の質の変化が含まれます。UKidney を受け取った参加者の全生存期間と UKidney 自体の全生存期間も有効性エンドポイントです
安全性エンドポイントには、有害事象および重篤な有害事象の発生率、全死亡率、タンパク尿、人獣共通感染症、日和見感染症の発生率が含まれます

当然ながら中国でも実施されると思っていましたが
2025年3月6日 中国陝西省西安の空軍軍医科大学付属西京医院にてアジア初、世界5例目の遺伝子改変ブタ腎移植に成功と報道

中国で人体へのブタの腎臓移植手術に成功…「アジア初」
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e00db6a56ed302972ab9674e8978dd4864b37cc
Gene-edited pig kidney transplanted successfully in Xi'an CHINADILY.com 2025/3/13
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/13/WS67d28380a310c240449daa0e.html
Pig kidney transplanted into renal disease patient CHINADAILY.com 2025/3/14
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/14/WS67d380b4a310c240449dab8e.html

2025年3月15日時点、世界では5例の遺伝子改変ブタ腎移植がヒトにたいして行われ、そのうち、2例が早期死亡、3例がグラフト生着生存中ということになります

腎不全医療のみならず、臓器不全医療に革命的な変化を起こす可能性のある異種腎移植が現実化してきました。

2007年頃、私自身はミネソタ大学移植外科にて異種移植研究に従事しておりましたが、非科学的商業主義に嫌気がさしたことと、異種感染症によって人類は滅亡する可能性があると感じ、研究から離脱しました。

ブタから人への人畜共通感染用として、古くは、日本脳炎、 豚丹毒、サルモネラ、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、最近で言えば鳥インフルエンザ、E型肝炎ウイルス、 中国で豚から人に移って亡くなった劇症型連鎖球菌症などが有名です。

厚生労働省指針の「移植に際して危険性が排除されるべきとされる病原体」のリストにはウイルス44種,細菌 25種,真菌 2種,原虫 18種など,合計で89種の病原体が示されています。

異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
平成27年度厚生労働科学研究費補助㔠厚生労働科学特別研究事業
研究代表者 俣野哲朗(国立感染症研究所エイズ研究センター長)

ブタ感染症についてはこちらの文献がわかりやすく書かれています
これを読むと、もっともよく研究されている分野とはいえ、臨床医が楽天的に考えているよりもブタ感染症はなかなか手強いことがわかります。
異種移植における感染症リスクの検査―日本における現状と課題 
摂南大学農学部応用生物科学科動物機能科学研究室 井上 亮 三浦 広卓
人工臓器52巻3号 2023年 p245-249

異種感染症や慢性拒絶がクリアできるのか。
人類生命に脅威を与える可能性はコントロールできるのか。
医学的先進性への過剰な期待や商業主義による暴走が起きないことを祈りつつ、前向きに経緯を見守ってゆきたいと思います。


2025年3月13日木曜日

我が国の高齢腎不全患者に対するPDの歴史 History of PD for elderly renal failure patients in Japan

1956年、腹膜灌流による国内初の救命報告は、貝毒急性腎不全による56歳男性患者であった。

單腎部分切除と腹膜灌流

長崎大学泌尿器科 城代浹一郎 日泌尿会誌 48 10 1957 p807-819

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/48/10/48_10_807/_pdf/-char/ja

 

1946年に人工腎臓による世界初の救命に成功したKolffSLE腎症の77歳女性にたいする高齢者透析の初報告を行ったのは1957年であった。

Use of artificial kidney in the very young, the very old, and the very sick

W A KELEMEN, W J KOLFF J Am Med Assoc. 1959 Oct 3:171:530-4.

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/326812

 

我が国の腹膜透析の歴史は高齢者から始まったとも言える。

 

1961年、人工腎臓の実用化に成功したスクリブナーの所属する米国シアトル市スウェーディッシュ・ホスピタルにて「人工腎臓センター管理政策委員会」 が招集された。限られた透析医療資源において「全員が生きられないときに誰が生きるべきか」を選別するためである。196211月のライフ誌の特集記事において、本来、生命の選別は神のみに許されると思われることから【神の委員会】と呼ばれた。透析黎明期にあっては、45歳以下で社会復帰が望める患者のみが審査対象であり、高齢者は透析治療の対象外であった。

Alexander S. They decide who lives, who dies: medical miracle puts a moral burden on a small committee. Life. November 9, 1962;53(19):102-4, 106, 108, 110, 115, 117-8, 123-24. 

https://books.google.co.jp/books?id=qUoEAAAAMBAJ&printsec=frontcover&lr=&rview=1&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=true

 

 1975年に開催された第9回人工透析研究会の主題は、普及からわずか10年足らずであったが、驚くことに、すでに【高令者の透析】であった。透析医療の進歩普及によって高齢者への適応拡大が試みられるなか、社会復帰や生きがい、透析医療費など、現代も続いている課題について議論されている。

 国立王子病院小出桂三らは「高令者の人工透析」の演題で透析方法について述べているが、50歳以上では腹膜透析および腹膜透析と血液透析の併用療法が多数を占めていると発表している。当時は血液透析機器が不足しており、高齢者に関わらず、腹膜透析との併用が一般的だったようである。また、50歳以上が高齢者と分類されており、時代の変化を痛感させられる。



高令者の透析現況 人工透析研究会会誌9 (1976) 1 P12

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsdt1968/9/1/_contents/-char/ja

 

 1992年ころになると、透析人口高齢化に伴う社会的入院と病床不足が問題化した。徳島県川島病院では、その対策として在宅や施設で施行可能な腹膜透析も取り組まれたが、結果的に入院率が高く(平均15-20%)有効な手段ではなかったという。現代のような、地域の医療介護資源が整備されていなかった当時としては立派な数字だったと思う。

透析患者の入院を考える 日本透析医会雑誌 平成41130 Vol.8 No.2(17)p185

https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/8-2.pdf

 

いま振り返ると、腹膜透析が、社会的入院解決の受け皿になるためには、2000年代の地域包括ケアシステムの整備や訪問看護の普及、医療依存度の高い患者や看取りまで対応する老人施設の登場、さらにIoT技術の進歩普及を待つ必要があったのである。

 

 かしま病院中野広文らは、終末期透析患者では、治療によるADLや病態の改善を積極的に期待することができないため、これらの患者のQOLを向上させるためには、尿毒症治療そのものよりも看護・介護の比重が大きくなると指摘。終末期患者には質の高い看護・介護を導入しやすい治療法である腹膜透析の有用性を提案し、これをPDラストと呼んだ。

在宅医療におけるPDラストの有用性と課題 中野広文 透析会誌35(8):1205-1210,2002

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1994/35/8/35_8_1205/_pdf/-char/ja

 

 2002年には高齢者腹膜透析研究会(ゼニーレPD研究会)が発足し、様々な先駆的な取り組みが行われた。済生会八幡病院中本雅彦らはPDラスト北九州方式として通院困難となった血液透析患者を腹膜透析に療法変更し在宅療養とし、透析クリニックからの訪問診療を行った。埼玉医大中元秀友らは、クラウドに腹膜透析患者管理システムを構築し、インターネットを介して患者情報を共有化する連携モデルを提案、現代の遠隔患者管理(Remote Patient Monitoring)の先駆けになる構想であった。

テキストブック高齢者の腹膜透析 東京医学社 2008年 (絶版)

https://www.tokyo-igakusha.co.jp/b/show/b/118.html

 

 2003年、岡山済生会総合病院平松信らは、高齢者において、腹膜透析は、合併症率を増やさず安定して維持可能であり、血液透析に比べ、残存腎機能保持に優れ、認知症スケール、身体的自己維持スケール、および日常生活の手段的活動スケールいずれにおいても高いスコアであることを示した。このことは、免疫力の低下している高齢者は感染リスクが高く、腹膜透析は不向きである、という従来の考え方を覆すものであった。

Improving outcome in geriatric peritoneal dialysis patients

M. Hiramatsu Perit Dial Int. 2003 Dec:23 Suppl 2:S84-9.

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/089686080302302s18

 

このようななか、高齢化社会におけるニーズの変化にたいし、自由度とQOLに優れ、循環動態に与える影響も少なく、穏やかな在宅療養生活を可能にする腹膜透析への取り組みが広がっており、海外でも同様の試みがなされてきている。

2015年、スペインより、手技自立困難となった終末期腹膜透析患者を血液透析に変更することはやめ、腹膜透析を、Palliative peritoneal dialysis(緩和的腹膜透析)というコンセプトで【呼吸困難や尿毒症などの症状緩和を可能とし最期までケアされていることが実感できる治療法】として継続することを提唱している。

Palliative peritoneal dialysis: Implementation of a home care programme for terminal patients treated with peritoneal dialysis (PD)

Maite Rivera Gorrin Nefrologia. 2015;35(2):146-9.

https://www.revistanefrologia.com/en-pdf-S2013251415000061

 フランスは日本と似た医療介護の2本柱の制度を有しているが、その実態は大きく異なる。主に慢性期・終末期ケアを提供する日本の在宅医療に対し、フランスの在宅入院制度Hospitalisation à domicile (HAD)は急性期在宅医療であり、そのコンセプトは入院回避と早期退院であり在宅透析もその対象である。訪問看護を主体とする多職種協働の集中的ケアマネジメントにより入院医療に近いサポートを提供し医療依存度の高い患者を在宅で支えている。これらのシステムを活用することで、フランスでは56%がアシステッドPDであり、血液透析からの腹膜透析への移行も8.6%であるという。

Impact of Assisted Peritoneal Dialysis Modality on Outcomes: A Cohort Study of the French Language Peritoneal Dialysis Registry

Solène Guilloteau Am J Nephrol. 2018;48(6):425-433.

https://karger.com/ajn/article-abstract/48/6/425/33086/Impact-of-Assisted-Peritoneal-Dialysis-Modality-on?redirectedFrom=fulltext

 

 高齢者腹膜透析普及のボトルネックとして,腹膜透析医療についての情報不足や提供施設が少ないことが挙げられる。腹膜透析プログラムの開始に必要な医療リソースは血液透析にくらべ圧倒的に少なく、維持管理もIoTを駆使した在宅支援診療所や訪問看護との連携によって以前に比べ容易になった。

 

 2018年、遠隔治療モニタリングが利用可能となり、多患者一括管理や治療密度改善が可能となった。クラウド型電子カルテやSNS連携ツールとの相乗効果によって、在宅や施設であってもあたかも病院と同様なバーチャルホスピタル環境の提供が可能となった。IoT技術と先進テクノロジーの相乗効果によるイノベーションが急速に進行し、患者を中心とした異なるケアシーンや医療従事者をIoTによってつなぐ、コネクテッドケアの概念は腹膜透析医療との親和性が高く、腹膜透析地域連携ネットワーク構築によってより精度の高い管理を可能にした。

 

地域医療介護リソースの充実は、近年の極めて大きな社会環境変化であった。2000年より始まった介護医療保険制度と在宅支援診療所や訪問看護ステーションなどとの地域包括ケアシステムの拡充によって、地域の受け皿はソフト・ハードともに十分に整備され、腹膜透析医療が病院単独の医療であった過去から脱却し,地域医療への広がりを可能にした。

 

高齢腎不全患者に対する我が国の腹膜透析の歴史・経験についてまとめた。高齢化社会のなか私達の進む方向性を示唆してくれているといえよう。


シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用 しております 低栄養・ 緊急導入・ 高度尿毒症・ 糖尿病・ ステロイド・ 超高齢など しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よ...