2026年6月22日月曜日

介護保険認定の取り下げについて Withdrawal of Long-Term Care Insurance Certification

 介護度の低い患者さんで介護保険が足かせになりアシストPDケアプランが策定困難、もしくは導入後ADL改善によって介護保険サービス不要になった場合、介護保険は取り下げ、医療保険に切り替えたほうが良いケースがあります。 とくに、頻回の訪問看護サービスが必要なアシステッドPDにおいては、医療訪看の活用が必要になる場面が多いと思います。

ご存知の通り、特別訪問看護指示書は「頻回な訪問看護が必要である」と医師が認めたときに限り交付可能で下記のようなケースに限られており、ケアマネや訪問看護に連続交付を依頼されることがありますが、連続交付は原則として認められていません。

  • 急性増悪時(急性感染症など)
  • 末期の悪性腫瘍等以外の終末期
  • 退院直後
「漫然とした」特別訪問看護指示書の発行は、厚生労働省が定める監査・指導において最も厳しくチェックされる項目の1つです。
明確な医学的根拠や状態の悪化がないにもかかわらず、高頻度の訪問を継続する目的で指示書が発行された場合、不正請求や算定要件違反とみなされ、診療報酬返還が指示されることがあります。

以前、要介護認定の取り消しについては対応が各市町村で迷走していた時期がありましたが、 平成30年度診療報酬改定時のQ&Aにて認める旨の厚生労働省の疑義照会返答あり、各市町村で対応可能となっています。

背景には介護保険財政負担増に伴い、介護度改善(によって介護保険利用が減ること)が評価されるようになったことがあげられます。 https://gemmed.ghc-j.com/?p=31058

市町村窓口担当者やケアマネに周知徹底されていないこともあるようですので、下記の根拠を伝えてみてください。
平成30年度診療報酬改定時のQ&A(18.9.11 老人保健事業及び介護予防事業等に関する Q&A (追加・修正) vol.2 〔3〕) 要支援・要介護認定を受けている者が、自主的に認定の取下げを届け出た場合は、特定高齢者と見なすことができるが、この取扱いについては、介護保険法第31条及び第34条に規定する要介護認定等の取消として取り扱うものである。 取り消し届け出のひな型も最後のページにありますので参考にしてみてください https://www.wam.go.jp/wamappl/26KYOTO/26bb01kj.nsf/6b16380d97f55135492567d0000714b4/0abd724ba2b0031b492571e80006e067/$FILE/%E8%80%81%E5%81%A5%E5%8F%8A%E3%81%B3%E4%BA%88%E9%98%B2Q&A(vol2)(860KB).pdf 市町村によっては申請書ひな型をHPに上げてるところもあります 鹿児島市 要介護(要支援)認定を受けている人が、医療対応等の理由により認定の取消しを希望する場合に提出していただく申請書です。 http://www.city.kagoshima.lg.jp/kenkofukushi/chouju/kaigohoken/kenko/fukushi/kaigo/download/shinse-10.html 神戸市 要介護(要支援)認定の有効期間中に、状態が改善した等の事情により、介護サービスを利用する予定がなくなるなど認定自体が不要となった場合は、認定の取下げ手続きを行います。 https://www.city.kobe.lg.jp/a46210/kenko/fukushi/carenet/nintei_guide/shinseidaikou_c10.html 介護保険の認定取り下げによって担当ケアマネが外れることを心配する声もありますが、もともと介護が低いケースでは介護保険利用するよりも、介護用具リースや地域生活支援事業を活用しながら別表8在宅透析による医療訪看を活用したほうがメリットが大きい場合が多いです


ただし、当然のことながら、ケアマネが担っていたさまざまな生活支援や調整業務について、医療保険に切り替えたのちは、医療者(医師・看護師・MSWなど)が目配りしてゆく必要があります。また、病状推移や老衰が進行して、再度、本当に介護保険が必要となったときの適切な対応・調整も見通しながらケアマネと連携しつつ診てゆくことが求められます。

2026年6月19日金曜日

中国で遺伝子改変ブタの肝腎同時移植がヒト脳死患者に対し行われた 广西医科大学 第二附属医院 Chinese team achieves world's first combined pig liver and kidney transplant in human; Second Affiliated Hospital of Guangxi Medical University

これまでも遺伝子改変ブタを用いた異種移植ヒト臨床の話題を取り上げてきた

2025年2月3日 United Therapeutics Corporation UKidney™の臨床試験をFDAが承認https://kagoshimapd.blogspot.com/2025/02/202523-united-therapeutics-corporation.html

遺伝子改変ブタ腎移植アップデート 中国でも始まった Gene-Modified Pig Kidney Transplantation Update, Also started in China.
https://kagoshimapd.blogspot.com/2025/03/blog-post.html

2026年 広西チワン族自治区南寧市にある广西医科大学 第二附属医院から6つの遺伝子編集を施したブタから53歳のヒト脳死患者への、肝臓と両側腎臓の同時移植(異種移植)(xeno-CLKT)の症例が報告された
First human decedent model of orthotopic multi-organ xenotransplantation: Whole liver and bilateral kidneys from a six-gene-edited pig
Med Volume 7, Issue 6, 12 June 2026
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666634026001510

これは世界初の遺伝子編集ブタからヒト(脳死)への肝腎同時移植の報告

論文によると超急性拒絶反応なく、約5日間は肝腎機能を維持したとのこと

S100A12陽性好中球が初期免疫エフェクターの鍵となる細胞として同定された
S100タンパク質ファミリーは、細胞種特異的に発現し、2つのEF-handを持つカルシウム結合タンパク質であり、現在までに 20種類のファミリーが確認されている。細胞内シグナル伝達だけでなく、細胞外に分泌され機能することも知られている。S100タンパク質ファミリーの機能は、複雑で多岐に渡っていると考えられており、未解明の部分が多く残されています。近年、糖化タンパク質AGEの受容体であるRAGEの新規リガンドとしてS100タンパク質が報告されている。
S100A12は炎症反応において重要な役割を果たすカルシウム結合タンパク質であり、炎症反応の惹起や敗血症、また動脈硬化の病態生理にも深く関与していることが知られている

移植後のメタボロームプロファイルは、レシピエントのベースラインからのわずかな変化を示したのみであった

中国における異種移植の進歩は予想を超えたスピードで進展しているようです








2025年10月23日木曜日

家族によるバッグ交換 医療行為の違法性阻却について

バッグ交換家族も可能 2025年10月16日 公明党HP
https://www.komei.or.jp/komeinews/p458470/ 
 患者自ら在宅で透析液を交換する腹膜透析を巡って鰐淵洋子厚生労働副大臣(公明党)は15日、患者の代わりに家族が交換することについて「やむを得ない場合は可能」との見解を表明した。在宅血液透析患者の穿刺も同様の考えを示した。厚労省で日本腹膜透析医学会の水口潤理事長らから要望を受け、答弁した。 

  もともと、喀痰吸引や経管栄養は、家族が行う医療行為として認められていますが、腹膜透析のバッグ交換も同様に家族が行ってきたのです 
とくに、小児PDでは母親が手技を行うのは当然でした 
それをいまさら、なんのための発表かと皆いぶかしがっていると思います 

 実際、日本においては、高齢腹膜透析患者さんのうち約10%がその手技を介助者に頼っており、その内訳としてご家族による介助が80%,看護師の介助が15%という報告があります。これについても特段問題視されてきたことはなかったのです。
 高齢化する腹膜透析患者の透析実態に関するアンケート調査 日下ら 透析会誌50(2):139~146,2017 

 国際的にも、アシステッドPDの腹膜透析実施者については、当ブログの記事でも紹介した通りです。アシステッドPDの実施者はカナダ・イギリス・中国では研修を受けたヘルパーも可能なのです

 日本でもかつではヘルパーによる手技施行も行われていましたが、医療行為ということで現在では行われなくなっています。今後、人口減少高齢化にともなう医療供給の縮小が見込まれていますので、再検討されるべきだと考えています。

 腹膜透析手技をヘルパーにも施行してもらうためには、無料で技能講習会やればよいのです(当然、講師はボランティアで)  

 また、さらりと書いてありますが、家族による在宅血液透析の穿刺も容認しているようですが これまでの議論との整合性はどうなるのでしょうか? 
副大臣が経緯を知らないのをいいことに明言させてしまったように感じました 

在宅血液透析管理マニュアル改訂の経緯と論点

 参考まで、家族による医療行為はなぜOKなのかについて、下記が参考になると思います

 注排液や接続切り離しは医療行為ですので、基本的にはこの解釈に基づいて、家族による腹膜透析のバッグ交換も行ってきました

違法性の阻却(そきゃく)について 
 医師法第17条により、医療行為は医師の業務独占とされています。
また、保健師、助産師、看護師又は准看護師は医師の指示により「診療の補助」として行うことができます。 
 それでは、なぜ家族は日常的に医療的ケア(医療行為)をしてもOKなのか。 
平成17年に厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会協議会(中医協)から「医事法制における自己注射に係る取り扱いについて」という文章が出ています。 
 この条件は「インシュリンの自己注射について」書かれたものですが、家族による他の医行為についても、同様の理由で違法性が阻却されると考えられます。 

 参考文献 中医協 診-1-2 医事法制における自己注射に係る取り扱いについて(平成17年) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0330-7b.pdf 

 結論としては、「家族による医療行為は違法だが、一定の条件を満たしていれば違法性が阻却される」と考えられます 

1 医行為について 
 医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」 医業とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことです。 
 したがって、医師の業務独占とされている医行為は、看護師など一定の範囲で医師の業務独占を解除された有資格者が行う場合を除き、医師以外の者が医行為を行うことは原則として認められません。 看護師の業務 看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」です(保健師助産師看護師法第5条)。主治医または歯科医師の指示があった場合のみ、「診療の補助」として医行為を行うことができます(保健師助産師看護師法第37条) 

 2 患者自身が行う医療行為について 
 「医師法の趣旨」と「違法性の阻却」 たとえ患者本人による医行為であったとしても、医師法に照らして考えてみるとやはり「違法」ということになります。 しかし、「公衆衛生上の危害を防止することを目的」とする医師法の趣旨に照らし「違法性が阻却」されます。 

 3 家族が行う医療行為について 
 違法性阻却の条件 医師法違法だが、患者と特別な関係にある家族が行う場合には下記の条件を満たしていれば違法性が阻却されます。 

 目的が正当であること(患者の治療目的であること) 

 手段が正当であること(医師の判断に基づき、十分な患者教育、家族教育を行った上で、適切な指導及び管理の下に行われること) 

 法益侵害(危険の発生)よりも得られる利益(患者の通院負担の解消)が大きいこと 法益侵害の相対的軽微性(侵襲性が比較的低いこと、行為者は患者との関係において家族という特別な関係にある者に限られていること) 

 必要性・緊急性(医師が必要と判断していること。患者の通院負担を軽減する必要があると認められること)

令和7年12月18日 透析医学会より腹膜透析のバッグ交換に対する重要なお知らせが告示されました。
これまでも一般のバッグ交換は医療行為として在宅・施設では看護師によってアシステッドPDが行われており、「やむを得ない事情」として小児や高齢者において家族が行ってきており、上記のように違法性阻却と解釈してきていました。
改めて、なにか問題があったので、学会がこのようなアクションを取っているのか、法的解釈に変更があったのか、現場の混乱を避けるためにも、そのあたりも明示してほしいものです。


2025年6月8日日曜日

シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用しております
低栄養・緊急導入・高度尿毒症・糖尿病・ステロイド・超高齢など

しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よくご質問をいただきます。

2.重要な基本的注意  
    (4) 本品をポビドンヨードで長時間浸潤すると早く劣化するので、長時間接触は避けること。
ハヤシデラ PDカテーテル 添付文書 第10版 2024年8月改定
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04946685133212

 根拠は甲南病院からの古い報告だったと思います
うろ覚えですが、レントゲン不透過マーカーが劣化するとか?議論していた記憶があります
CAPDカテーテルの長期使用における質的形態的問題 1994

結論から述べると、シリコーンカテーテルへのヨード消毒剤の使用は気にせず使って良いと考えております。

まずは、ISPDガイドライン
実は、ヨードについては言及されていません。
そのかわり、ムピロシン軟膏とゲンタマイシン軟膏について記載があります
出口部ケアに連日塗布することを勧めている(1C)のに矛盾していますね
ISPDカテーテル関連感染症に関する勧告:2023年改訂
ムピロシンのポリエチレングリコール基剤がポリウレタン製カテーテルを劣化させる可能性
およびゲンタマイシンクリームがシリコン製カテーテルを劣化させる可能性が報告されており,軟膏やクリームとPDカテーテルとの接触は最小限に抑える必要があることにも注意すべきである(P207 右段)


ヨードによるシリコン劣化の記述は、古いCDCガイドラインに記述がありました
Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities (2008)の48ページ
ヨウ素またはヨウ素系消毒剤は、シリコンチューブに悪影響を及ぼす可能性があるため、シリコンカテーテルには使用しないように、と記載されているのですが
参照リンクは会社のFAQでしかもすでに削除されていますので、どんなもんかなというところですね
687.Medcomp. Medcomp Frequently Asked Questions. [This link is no longer active:www.medcompnet.com/faq/faq/html], 2000.
Uses. Besides their use as an antiseptic, iodophors have been used for disinfecting blood culture bottles and medical equipment, such as hydrotherapy tanks, thermometers, and endoscopes. Antiseptic iodophors are not suitable for use as hard-surface disinfectants because of concentration differences.
Iodophors formulated as antiseptics contain less free iodine than do those formulated as disinfectants 376.
Iodine or iodine-based antiseptics should not be used on silicone catheters because they can adversely affect the silicone tubing 687.

シリコン内部にヨードが浸透するわけでありませんし、実際、10年以上、イソジンゲルを使用している患者さんのカテーテルを観察しても特に劣化はみられません。
ということで、イソジン消毒液もイソジンゲルも気にせず使用して良いと考えています。

ちなみに、慶応大学中山先生たちより、出口部感染後の出口部ケアにイソジンシュガーを使用すると、再感染HR0.22と非常に有効であることが報告されています
Efficacy of sucrose and povidone–iodine mixtures in peritoneal dialysis catheter exit-site care
BMC Nephrology volume 25, Article number: 151 (2024) 


共同著者である国際医療福祉大学成田病院腎臓内科の内山清貴先生に伺うと、レビュワーからはシリコン劣化についてはとくになにもなく、ヨードの細胞障害性について質問があったそうです
イソジンシュガー(ユーパスタ軟膏)はヨード濃度が3%でありヨードを徐放性に放出するため、ヨードによる細胞障害性は低いと考えており、その観点からも、イソジン消毒液(ヨード濃度10%)よりも適していると考えているそうです。
Topical antimicrobial toxicity
Arch Surg. 1985 Mar;120(3):267-70. doi: 10.1001/archsurg.1985.01390270007001.
Sugar paste and povidone-iodine in the treatment of wounds
J Wound Care. 1996 Sep;5(8):364-5. doi: 10.12968/jowc.1996.5.8.364.

よく出口部処置に使用されているイソジンゲルは処方薬ではありませんので、病院供与もしくは患者購入が必要になっていますが、安価なものではありません(たった5gで456-737円 2025/6/8Amazon)

ユーパスタは適応病名である褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)があれば処方可能ですし、細胞障害性や創傷治癒の側面からもイソジンゲルをやめてユーパスタ軟膏による出口部処置に変更してみようと思いました
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071417





2025年4月21日月曜日

腹膜透析普及の障害と政策提言 Barriers to the prevalent of peritoneal dialysis and policy recommendations

  腹膜透析と血液透析の治療成績はほぼ同等であると言われているにもかかわらず、腹膜透析が普及していない原因についてはさまざま指摘されていますが、テクニカルにはいずれも克服できるものであると考えられています。
Epidemiology of peritoneal dialysis outcomes
Nature Reviews Nephrology volume 18, pages779–793 (2022)

 高齢者で手技が自立できないケースであっても、我が国の医療介護保険制度は世界的にみても優れているおかげで、訪問看護を活用したアシステッドPDでまったく問題なく行えます。
 腹膜透析を患者に適切に届けられていない最大の原因は、医療者側の怠惰であると指摘する声もあります(個人的にはそう考えています)。

 地域の大学医局や基幹病院を頂点とする医療教育ギルドにおいて、不幸にも低レベルな教育しか受けられなかった医療者が、第3者による監視もされないままに低レベル低価値医療を提供し続けていることに問題の本質があります。
 脳外科竹田くんの問題は、ことの大小はあれども、じつは日本の医療界、とくに選択肢が限られている地方では普遍的な側面でもあるのです。https://dr-takeda.hatenablog.com/

 
 公的医療である透析医療の方向性に大きな影響を与えるのは、政策・行政と診療報酬制度です。
 我が国では公的医療である透析医療が民間資本主導によって普及してきました。患者数が増加してゆく過程では良かったのでしょうが、患者数が減少しはじめ、需要に合わせたスケールダウンが必要になったいま、どこもうまく対応できていないようです。
 CHCP(https://www.chcp.jp/)やCUC(https://www.cuc-jpn.com/)といったヘルスケア領域に特化したM&A企業も血液透析領域の採算性の悪さに手を焼いているようです。裏を返すと、(私達の間では分かっていたことではありますが)透析業界は、透析管理医師の盆暮れ正月もない、一般人の想像を超えた個人的献身・犠牲のうえに成り立っていた、ということなのです(そしてこのようなことは継続不能なのです)。

 また、地域の血液透析ベッド数は入院ベッド数と同様、地域医療計画に組み込まれるべきです。現在のような血液透析開業のハードルが低い状況は、楽観的な見通しで透析クリニック開業ができてしまう結果、透析ベッドの過剰提供となりがちで、さらには血液透析への患者誘導につながっていると感じています。

地域の過剰病床にたいし減床補償がなされているように、血液透析ベッドの減床にたいしても、減床補償を検討してもらえるとスムーズなサイズダウンが進むのではないでしょうか。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05CT50V00C25A3000000/
 
 このようななか、血液透析に比べ腹膜透析は、少ない人員、土地建物・設備投資も不要であり、結果的に商業主義透析になりにくく、温和な在宅終末期も可能です。人口減少高齢化社会に最適な透析療法と言えるでしょう。

 腹膜透析普及という観点から、透析医療の抱えている課題と解決アイデア、それらを実行するためにどのような政策提言が可能なのか考えてみました。



 医療保険と介護保険の併用ができないため介護度が高くなると施設入所を選択せざるを得ない、PD患者でなくても要介護3くらいになると、自宅での生活が難しくなるので、同居家族がいなければ施設を検討することになります。

 昭和50年代後半(1980年代)から、核家族化と少子高齢化が進む中で、体力の低下や認知症が現れた高齢者の介護の問題が深刻になり、家族だけでなく、地域や社会全体で支え合う制度として、平成12年4月1日から「介護保険制度」が始まりました。
 地域包括ケアシステムとして、【病院から地域へ】の掛け声の下、地域の受け皿整備が行われてきました。



 しかしながら、介護保険制度自体は、そもそも家族の介護負担を軽減するために制度設計がなされた経緯があるため、独居や医療依存度の高い高齢者の増えている現状には適応しにくくなってきています。








 医療依存度の高い透析患者では、マル長を利用して入院するのが一番経済的負担が少ないので社会的透析入院となるわけです(ただし社会コストは最大)。
 特に、血液透析患者では、週3回の通院送迎問題があり、送迎車に自力で乗れない患者さんは送迎対象外となることもあって、社会的入院になり終末期まで病院生活を余儀なくされている現状があります。

 いっぽう、入院コストを在宅・施設入所コストに振り分けたほうが社会コストは安くなるのは自明です。
 たとえば、センター透析を在宅(腹膜)透析へ誘導することの経済効果を検証した、2012年 Ontario Renal Network Home Dialysis Initiativeにおいて、センター透析から在宅透析への誘導政策によって、在宅透析普及率は2012年21.9%から2019年26.2%に増加し、そのほとんどはPD、推定8000万カナダドル=82億4000万円(1カナダドル=103円)のコスト削減に成功しています。
 日本の場合、社会的入院コストが在宅に移行することで解消されることを考えると、さらに大きな社会コスト削減が患者さんのQOL改善とともにもたらせることになります。
 


 在宅・施設入所腹膜透析患者にたいし、医療保険と介護保険の併用(訪問看護を医療)を認めてもらえると、在宅生活継続や施設入所のハードルは下がります。(別表7の疾患)
 じっさい、筋ジストロフィーや頚髄損傷の患者さんがこの制度のおかげで、質の高い在宅生活を送ることができています。

 京都市や函館市のように自治体限定で認められている地域もあります。生活支援分は介護保険をベースにしたほうが地方財政負担が少なくなる、ということなのでしょう。

 ちなみに、後期高齢者医療制度における医療給付の財源は、公費が5割、現役世代からの支援金(国民健康保険や被用者保険等からの負担)が4割で、残りの約1割を被保険者の保険料。公費負担分は国:県:市町村が、それぞれ4:1:1の割合になります。




 しかし、いっぽうで、患者負担という意味では、入院のほうが安いことに変わりはないので、社会的入院よりも在宅・施設を選びやすくなるように、在宅や施設入所した場合の患者負担が入院よりも安くなるようにするか、もしくは社会的入院と認められるものは施設と同額の負担にまで引き上げるか、いずれか(もしくは両方)の対応が必要でしょう。
 透析病院が患者を囲い込まないようにするために、社会的入院透析をターゲットにさらに厳しい包括制度を導入することも必要かもしれません。

 医療依存度の高い患者の社会的入院を回避し、地域での支援制度として、フランスのHAD(在宅入院制度)は参考になります。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000003118


  この制度を活用することで、フランスでの腹膜透析は56%がアシステッドPDを利用しています。また、血液透析から腹膜透析への移行(いわゆるラストPD)が新規PD患者の8.6%を占めているそうです。


 日本では、軽症・老衰患者への訪問診療や訪問看護が過剰に行われていることが問題になっています。
ホスピス住宅「儲け至上主義」で不正行為が蔓延。最大手にも疑惑、手厚い看取りの制度が収益化手段に 印南 志帆 : 東洋経済 記者 2025/04/16 5:00

 人口減少高齢化によって、供給低下が著しい医療介護資源を有効活用するため、フランスを見習って、在宅支援診療所・訪問看護・施設はもっと医療依存度の高い患者のために働くべきなのです。

 在宅療養支援診療所は、軽症患者に頻回訪問を行う低密度診療によって、在宅バブルと言われるほどの利益をあげています。腹膜透析のようなきめ細かな(手のかかる)管理の必要な患者は敬遠されてしまう傾向にあります(タイパが悪い)。最近も、もともと在宅療養支援診療所が関わっていた高齢患者さんに腹膜透析を導入したのですが、退院後の介入継続を断られました。その理由は、在宅透析患者の経験がない、ということでした。なんのための訪問診療なのかと思いますが、そのような在支診にはもともと診る能力が疑わしいので、断ってもらってかえって良かったとも思います。

 在宅医療・訪問看護を真に必要な患者に提供するためには、下記がポイントになるでしょう。限られた医療資源・財源を有効に利用するために、早急な診療報酬の改善が必要だと考えています。
①慢性期・老衰を対象にしない
②管理できる患者数を制限する(総数規制)
③対象疾患を限定する

 


2025年4月3日木曜日

ミニマム創テンコフカテーテル留置術 Minimum Incision Tenckhoff Catheter Placement

 当院では、局所麻酔&腹壁ブロック+プレセデックス鎮静による、小開創テンコフカテーテル留置術を採用してきました。手術時間は20-30分程度、特別な機器も必要とせずカテーテルトラブルも少ない安定した術式です。


 さらなる術式改良を目指し、低侵襲な術式の改善を模索してきました。
 最近、腹直筋前鞘切開延長を行わない、ミニマム創テンコフカテーテル留置術を開発しました。優れた術式と思われますので簡単に紹介したいと思います。
 手術時間は15-25分、術創は2-3cmとラパロポートひとつ分です。小さな創で腹直筋をスプリットしないため術後疼痛もかなり軽減されます。


 セルジンガー法と比較しても、安全で早く低コストと三拍子そろった優れた術式と考えています。
 オペ室スタッフからも、エコーとCアーム準備する手間もなく、というより準備する間もないくらい短時間で終わってしまうので、セルジンガー法よりもミニマム創のほうが圧倒的に支持されています。

 安全性の面から、気管切開がセルジンガー法からハイブリッド法(気管前面露出)、ラパロのファーストポートが穿刺法から直視法が主流となったように、テンコフカテーテルも開腹操作までは直視下が推奨されると考えています。

 視野を確保するために腹直筋後鞘に支持糸をかけ、それをカフ下縁の固定および切開孔縫縮に使用することが要点です。カテーテルをしっかり寝かせることもできます。
術中にリークテストを行い、術当日から貯留開始し(Urgent start)、術翌日からは1.5Lのフル貯留を行うことができます。

 ポイントは下記になります、従来の手技の延長で簡単にできます。

  1. 腹直筋前鞘切開の延長は行わない
  2. 深部カフ上のみのミニマム切開
  3. 腹直筋後鞘に支持糸3-4針かけ吊り上げ
  4. 腹膜切開は最小
  5. タバコ縫合は行わない
  6. カフ下縁のZ縫合を支持糸を用いて行う
  7. カテーテル腹直筋後鞘固定は行う
  8. トンネラーにて腹直筋背側を通し前鞘を貫通
  9. トップカフ切開部へトンネラーで誘導

腹直筋前鞘切開を延長しないため
その分手術操作が短縮
皮膚切開・腹直筋スプリットは最小限
術後痛も少なくなります

創が小さいためヘッドライトが有用です
高価なものでなくこの中華製3969円で十分です
https://ja.aliexpress.com/item/1005006809245153.html

カテ先端を恥骨上縁より2-4cm下におき
深部カフポジションを決定
コツ:皮下脂肪厚いときはやや頭側にする

ゲルビー型開創器を使うと便利です
25-01-S(通常)
25-01-W(肥満のとき上下2個かけます)

腹直筋後鞘3時9時方向に指示糸をかけ針を残しておく
釣り上げながら良好な視野で安全に開腹
支持糸は結紮したときに縫縮されるよう
切開予定部を中心に円を描くよう3-4針かけ
結紮せずモスキートで把持しておく
コツ:持針器のあつかいになれていたら
1針で腹直筋後鞘に3バイトずつ運針

創が小さいため腹壁に沿わせやすいように
足側腹壁を筋鈎でしっかり引き上げ挿入する
ポイント:カフが皮膚に接触しないよう注意

針を残しておいた支持糸を使用しカフ下縁にZ縫合
結紮することで切開孔が縫縮される

リークテスト200mlおこない
必要に応じ追加縫合

カテを寝かせるため後鞘前面に縫合固定
Anterior PWAT 
補強部のあるKTカテが使いやすい
KT540-130(A)S3

先端鈍弱弯トンネラーを腹直筋背側に沿わせ
ブラインド操作で前鞘を適切な位置で貫通
トンネラー操作は完全に無抵抗
少しでも抵抗を感じたら無理に押さぬよう注意
トップカフ固定予定切開部まで皮下を誘導
コツ:トップカフ位置が創直下にならぬよう
カフは皮膚接触避け消毒しておく(感染予防)

ブラインド操作ではあるが乏血管部のため安全
ただし少しでも抵抗あるときは無理せずに再操作すること
痩せた症例では腹腔誤穿刺にも注意

出口部をスピッツメスで切開しモスキートで拡張
コツ:少しくらいの出口部出血は焼かずに圧迫で止血
続いて出口部まで皮下を誘導
当院では上腹部肋骨弓上出口で行っている
(ピストン運動なく固定も安定)

術当日0.5Lで洗浄し問題なければ1.0L貯留
Urgent Startが基本
翌日からは1.5Lフル貯留開始



2025年3月15日土曜日

遺伝子改変ブタ腎移植アップデート 中国でも始まった Gene-Modified Pig Kidney Transplantation Update, Also started in China.

2024年3月16日 MGH & eGENESISは遺伝子改変ブタ腎臓のヒトへの移植に世界で初めて成功したと発表
https://wired.jp/article/genetically-edited-pig-kidney-human-transplant-xenotransplantation-massachusetts-general-hospital/
日本人が執刀しています(河合達郎先生)
Xenotransplantation of a Porcine Kidney for End-Stage Kidney Disease.
The New England journal of medicine. 2025 Feb 07; doi: 10.1056/NEJMoa2412747.
https://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa2412747
日本語解説
河合達郎先生についてはこちらhttps://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/blog/kurofunet/tkawai 

2024年4月12日 異種腎移植レシピエントが残念ながら、拒絶反応や異種感染症以外の原因で患者死亡と発表
移植とは無関係とのことですが詳細は未発表です 
Recipient of first pig kidney transplant dies nearly 2 months later The hospital said there was no indication the passing was due to the transplant. ByRiley Hoffman May 12, 2024, 10:46 AM

その後、遺伝子改変ブタの開発は世界的な開発競争が行われています
eGENESISのほかにはユナイテッド・セラピューティクス社が同様の研究開発をおこなっています

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™は10個の遺伝子を改変した遺伝子改変ブタを作成。
ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™の前臨床試験はジョンズ ホプキンス大学の山田和彦とアンドリュー M. キャメロンによって行われました。
バージニアにある臨床グレードSPF環境の遺伝子改変ブタ飼育場では年間125臓器の出荷が可能で、現在、ミネソタ州にさらに建設中だそうです。
2024年11月25日 ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を移植する初の異種腎移植に成功しました。

レシピエントはアラバマ州に住む53歳女性 Towana Looney
母親に生体腎移植ドナーとして腎提供後、妊娠高血圧を契機として腎不全となり透析導入されていたが、クロスマッチ陽性のために腎移植が受けれない状況であったそうです
UKidney™異種腎移植はNYU Langone HealthのRobert Montgomeryにより執刀されました
術後2ヶ月、腎機能は問題なく、異種感染の兆候もないということでした


2025年2月3日 United Therapeutics Corporation (Nasdaq: UTHR)からUKidney™ 異種腎移植の臨床試験計画がFDAの承認を得たとHP上で発表されました
2025年半ばに開始され、当初は6例、その後は60例まで、第 1 相/第 2 相/第 3 相複合試験 (フェーズレススタディ)を行う予定のようです

2 つのグループにおける UKidney の安全性と有効性を評価することを目的としています
対象患者は年齢 55-70 歳、ESRD の診断、少なくとも 6 か月間の血液透析であることと下記のいずれかの要件を満たしていることです
①医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと評価され、判断されたESRD患者
②腎移植の待機リストに載っているが、5年以内に脳死腎移植を受けるよりも死亡するか、移植を受けられない可能性が高いESRD患者

有効性エンドポイントには、参加者の生存率、UKidney のグラフト生存率、糸球体濾過率、および移植後 24 週間の参加者の生活の質の変化が含まれます。UKidney を受け取った参加者の全生存期間と UKidney 自体の全生存期間も有効性エンドポイントです
安全性エンドポイントには、有害事象および重篤な有害事象の発生率、全死亡率、タンパク尿、人獣共通感染症、日和見感染症の発生率が含まれます

当然ながら中国でも実施されると思っていましたが
2025年3月6日 中国陝西省西安の空軍軍医科大学付属西京医院にてアジア初、世界5例目の遺伝子改変ブタ腎移植に成功と報道

中国で人体へのブタの腎臓移植手術に成功…「アジア初」
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e00db6a56ed302972ab9674e8978dd4864b37cc
Gene-edited pig kidney transplanted successfully in Xi'an CHINADILY.com 2025/3/13
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/13/WS67d28380a310c240449daa0e.html
Pig kidney transplanted into renal disease patient CHINADAILY.com 2025/3/14
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/14/WS67d380b4a310c240449dab8e.html

2025年3月15日時点、世界では5例の遺伝子改変ブタ腎移植がヒトにたいして行われ、そのうち、2例が早期死亡、3例がグラフト生着生存中ということになります

腎不全医療のみならず、臓器不全医療に革命的な変化を起こす可能性のある異種腎移植が現実化してきました。

2007年頃、私自身はミネソタ大学移植外科にて異種移植研究に従事しておりましたが、非科学的商業主義に嫌気がさしたことと、異種感染症によって人類は滅亡する可能性があると感じ、研究から離脱しました。

ブタから人への人畜共通感染用として、古くは、日本脳炎、 豚丹毒、サルモネラ、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、最近で言えば鳥インフルエンザ、E型肝炎ウイルス、 中国で豚から人に移って亡くなった劇症型連鎖球菌症などが有名です。

厚生労働省指針の「移植に際して危険性が排除されるべきとされる病原体」のリストにはウイルス44種,細菌 25種,真菌 2種,原虫 18種など,合計で89種の病原体が示されています。

異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
平成27年度厚生労働科学研究費補助㔠厚生労働科学特別研究事業
研究代表者 俣野哲朗(国立感染症研究所エイズ研究センター長)

ブタ感染症についてはこちらの文献がわかりやすく書かれています
これを読むと、もっともよく研究されている分野とはいえ、臨床医が楽天的に考えているよりもブタ感染症はなかなか手強いことがわかります。
異種移植における感染症リスクの検査―日本における現状と課題 
摂南大学農学部応用生物科学科動物機能科学研究室 井上 亮 三浦 広卓
人工臓器52巻3号 2023年 p245-249

異種感染症や慢性拒絶がクリアできるのか。
人類生命に脅威を与える可能性はコントロールできるのか。
医学的先進性への過剰な期待や商業主義による暴走が起きないことを祈りつつ、前向きに経緯を見守ってゆきたいと思います。


2025年3月13日木曜日

我が国の高齢腎不全患者に対するPDの歴史 History of PD for elderly renal failure patients in Japan

1956年、腹膜灌流による国内初の救命報告は、貝毒急性腎不全による56歳男性患者であった。

單腎部分切除と腹膜灌流

長崎大学泌尿器科 城代浹一郎 日泌尿会誌 48 10 1957 p807-819

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/48/10/48_10_807/_pdf/-char/ja

 

1946年に人工腎臓による世界初の救命に成功したKolffSLE腎症の77歳女性にたいする高齢者透析の初報告を行ったのは1957年であった。

Use of artificial kidney in the very young, the very old, and the very sick

W A KELEMEN, W J KOLFF J Am Med Assoc. 1959 Oct 3:171:530-4.

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/326812

 

我が国の腹膜透析の歴史は高齢者から始まったとも言える。

 

1961年、人工腎臓の実用化に成功したスクリブナーの所属する米国シアトル市スウェーディッシュ・ホスピタルにて「人工腎臓センター管理政策委員会」 が招集された。限られた透析医療資源において「全員が生きられないときに誰が生きるべきか」を選別するためである。196211月のライフ誌の特集記事において、本来、生命の選別は神のみに許されると思われることから【神の委員会】と呼ばれた。透析黎明期にあっては、45歳以下で社会復帰が望める患者のみが審査対象であり、高齢者は透析治療の対象外であった。

Alexander S. They decide who lives, who dies: medical miracle puts a moral burden on a small committee. Life. November 9, 1962;53(19):102-4, 106, 108, 110, 115, 117-8, 123-24. 

https://books.google.co.jp/books?id=qUoEAAAAMBAJ&printsec=frontcover&lr=&rview=1&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=true

 

 1975年に開催された第9回人工透析研究会の主題は、普及からわずか10年足らずであったが、驚くことに、すでに【高令者の透析】であった。透析医療の進歩普及によって高齢者への適応拡大が試みられるなか、社会復帰や生きがい、透析医療費など、現代も続いている課題について議論されている。

 国立王子病院小出桂三らは「高令者の人工透析」の演題で透析方法について述べているが、50歳以上では腹膜透析および腹膜透析と血液透析の併用療法が多数を占めていると発表している。当時は血液透析機器が不足しており、高齢者に関わらず、腹膜透析との併用が一般的だったようである。また、50歳以上が高齢者と分類されており、時代の変化を痛感させられる。



高令者の透析現況 人工透析研究会会誌9 (1976) 1 P12

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsdt1968/9/1/_contents/-char/ja

 

 1992年ころになると、透析人口高齢化に伴う社会的入院と病床不足が問題化した。徳島県川島病院では、その対策として在宅や施設で施行可能な腹膜透析も取り組まれたが、結果的に入院率が高く(平均15-20%)有効な手段ではなかったという。現代のような、地域の医療介護資源が整備されていなかった当時としては立派な数字だったと思う。

透析患者の入院を考える 日本透析医会雑誌 平成41130 Vol.8 No.2(17)p185

https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/8-2.pdf

 

いま振り返ると、腹膜透析が、社会的入院解決の受け皿になるためには、2000年代の地域包括ケアシステムの整備や訪問看護の普及、医療依存度の高い患者や看取りまで対応する老人施設の登場、さらにIoT技術の進歩普及を待つ必要があったのである。

 

 かしま病院中野広文らは、終末期透析患者では、治療によるADLや病態の改善を積極的に期待することができないため、これらの患者のQOLを向上させるためには、尿毒症治療そのものよりも看護・介護の比重が大きくなると指摘。終末期患者には質の高い看護・介護を導入しやすい治療法である腹膜透析の有用性を提案し、これをPDラストと呼んだ。

在宅医療におけるPDラストの有用性と課題 中野広文 透析会誌35(8):1205-1210,2002

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1994/35/8/35_8_1205/_pdf/-char/ja

 

 2002年には高齢者腹膜透析研究会(ゼニーレPD研究会)が発足し、様々な先駆的な取り組みが行われた。済生会八幡病院中本雅彦らはPDラスト北九州方式として通院困難となった血液透析患者を腹膜透析に療法変更し在宅療養とし、透析クリニックからの訪問診療を行った。埼玉医大中元秀友らは、クラウドに腹膜透析患者管理システムを構築し、インターネットを介して患者情報を共有化する連携モデルを提案、現代の遠隔患者管理(Remote Patient Monitoring)の先駆けになる構想であった。

テキストブック高齢者の腹膜透析 東京医学社 2008年 (絶版)

https://www.tokyo-igakusha.co.jp/b/show/b/118.html

 

 2003年、岡山済生会総合病院平松信らは、高齢者において、腹膜透析は、合併症率を増やさず安定して維持可能であり、血液透析に比べ、残存腎機能保持に優れ、認知症スケール、身体的自己維持スケール、および日常生活の手段的活動スケールいずれにおいても高いスコアであることを示した。このことは、免疫力の低下している高齢者は感染リスクが高く、腹膜透析は不向きである、という従来の考え方を覆すものであった。

Improving outcome in geriatric peritoneal dialysis patients

M. Hiramatsu Perit Dial Int. 2003 Dec:23 Suppl 2:S84-9.

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/089686080302302s18

 

このようななか、高齢化社会におけるニーズの変化にたいし、自由度とQOLに優れ、循環動態に与える影響も少なく、穏やかな在宅療養生活を可能にする腹膜透析への取り組みが広がっており、海外でも同様の試みがなされてきている。

2015年、スペインより、手技自立困難となった終末期腹膜透析患者を血液透析に変更することはやめ、腹膜透析を、Palliative peritoneal dialysis(緩和的腹膜透析)というコンセプトで【呼吸困難や尿毒症などの症状緩和を可能とし最期までケアされていることが実感できる治療法】として継続することを提唱している。

Palliative peritoneal dialysis: Implementation of a home care programme for terminal patients treated with peritoneal dialysis (PD)

Maite Rivera Gorrin Nefrologia. 2015;35(2):146-9.

https://www.revistanefrologia.com/en-pdf-S2013251415000061

 フランスは日本と似た医療介護の2本柱の制度を有しているが、その実態は大きく異なる。主に慢性期・終末期ケアを提供する日本の在宅医療に対し、フランスの在宅入院制度Hospitalisation à domicile (HAD)は急性期在宅医療であり、そのコンセプトは入院回避と早期退院であり在宅透析もその対象である。訪問看護を主体とする多職種協働の集中的ケアマネジメントにより入院医療に近いサポートを提供し医療依存度の高い患者を在宅で支えている。これらのシステムを活用することで、フランスでは56%がアシステッドPDであり、血液透析からの腹膜透析への移行も8.6%であるという。

Impact of Assisted Peritoneal Dialysis Modality on Outcomes: A Cohort Study of the French Language Peritoneal Dialysis Registry

Solène Guilloteau Am J Nephrol. 2018;48(6):425-433.

https://karger.com/ajn/article-abstract/48/6/425/33086/Impact-of-Assisted-Peritoneal-Dialysis-Modality-on?redirectedFrom=fulltext

 

 高齢者腹膜透析普及のボトルネックとして,腹膜透析医療についての情報不足や提供施設が少ないことが挙げられる。腹膜透析プログラムの開始に必要な医療リソースは血液透析にくらべ圧倒的に少なく、維持管理もIoTを駆使した在宅支援診療所や訪問看護との連携によって以前に比べ容易になった。

 

 2018年、遠隔治療モニタリングが利用可能となり、多患者一括管理や治療密度改善が可能となった。クラウド型電子カルテやSNS連携ツールとの相乗効果によって、在宅や施設であってもあたかも病院と同様なバーチャルホスピタル環境の提供が可能となった。IoT技術と先進テクノロジーの相乗効果によるイノベーションが急速に進行し、患者を中心とした異なるケアシーンや医療従事者をIoTによってつなぐ、コネクテッドケアの概念は腹膜透析医療との親和性が高く、腹膜透析地域連携ネットワーク構築によってより精度の高い管理を可能にした。

 

地域医療介護リソースの充実は、近年の極めて大きな社会環境変化であった。2000年より始まった介護医療保険制度と在宅支援診療所や訪問看護ステーションなどとの地域包括ケアシステムの拡充によって、地域の受け皿はソフト・ハードともに十分に整備され、腹膜透析医療が病院単独の医療であった過去から脱却し,地域医療への広がりを可能にした。

 

高齢腎不全患者に対する我が国の腹膜透析の歴史・経験についてまとめた。高齢化社会のなか私達の進む方向性を示唆してくれているといえよう。


介護保険認定の取り下げについて Withdrawal of Long-Term Care Insurance Certification

  介護度の低い患者さんで介護保険が足かせになりアシストPDケアプランが策定困難、もしくは導入後ADL改善によって介護保険サービス不要になった場合、介護保険は取り下げ、医療保険に切り替えたほうが良いケースがあります。 とくに、頻回の訪問看護サービスが必要なアシステッドPDにお...