2026年8月19日水曜日

不適切な内シャントPTA 日本には善意の内部告発者(ホイッスルブロワー)はいないのか?

 私は以前より高齢者の内シャント閉塞は生理的生体防御反応であると考えています。そして、高齢者においては内シャントPTAを反復するのはやめて、腹膜透析に切り替えるべきと主張しています。
また、近年の都市部を中心とした内シャントPTA件数の異常な増加には、不適切な営利目的の過剰な治療提供が存在しており、厳格な監査適正化が必要と考えています。
アメリカでは内シャントPTAの不正請求が厳しく取り締まられてきましたが、その背景は、日本と酷似しており、紹介したいと思います。

アメリカの透析治療(特に内シャントなど血管アクセスの管理・手術)を巡っては、医療機関や専門クリニックが利益を最大化するために不要な手術や検査を繰り返し、政府の公的医療保険(メディケアなど)へ不正請求(詐欺行為)を行っていたとして、司法省(DOJ)から巨額の賠償金・和解金の支払いを命じられる事例が多発しています
Vascular Practice and Physician Agree to Pay More Than $6.73M to Settle False Claims Act Allegations of Unnecessary Vascular Interventional Procedures

1. 主な不正請求の手口
透析患者が血液透析を行うために作られる「内シャント(動静脈瘻)」などの血管アクセスは、詰まりや狭窄を起こしやすいため定期的な管理が必要です。悪質なクリニックはここを悪用し、以下のような手口で不正請求を行っていました。
2. 代表的な巨額賠償・和解事例
アメリカでは、内部告発者(ホイッスルブロワー)が政府に代わって訴訟を起こすことができる「虚偽請求取締法(False Claims Act)」が強力に機能しており、以下のような高額な和解が成立しています
摘発・和解時期対象となった医療機関・医師和解金・賠償金の額主な不正内容
2026年5月セラーノ腎臓・血管アクセスセンター(Dr. Feliciano Serrano)約673万ドル
(約10億円)
医学的基準を満たさない血管アクセス処置の実施、および狭窄度の誇張による虚偽請求。
2018年10月バスキュラー・アクセス・センターズ(VAC)最低3,825万ドル 〜 最大1,830万ドル
(最大約27億円)
メディケアの補償対象外である血管手術の請求、および請求を正当化するための医療記録の偽造。
2014年以降
(現在も係争中)
フレゼニウス・バスキュラー・ケア(Fresenius Vascular Care)各州および連邦政府から巨額の民事訴訟末期腎不全患者に対し、利益獲得とノルマ達成のために、不要なシャント手術や造影検査を組織的に繰り返した疑い。
(参考・過去)アメリカン・アクセス・ケア(AAC)120万ドル
(約1億8,000万円)
医学的に不要な血管拡張術(PTA)および血栓除去術の実施、過剰な回数の請求。
※日本円換算は目安です。







3. なぜこのような不正が起こるのか?
  1. 高い利益率
    透析そのものよりも、シャントのトラブルを治療する外科的・放射線科的処置(カテーテル治療など)の方が、医療機関にとって1回あたりの報酬・利益率が高く設定されているため、過剰診療の誘因になりやすい状況があります。
  2. 患者の脆弱性
    透析患者(特に高齢者や低所得者層)は週に何度も通院しており、医師の指示を拒否しにくいため、不要な手術であっても「シャントを長持ちさせるため」と言われると受け入れてしまう傾向にあります。
     
4. 社会的・医療的な問題点
司法省や各州の司法長官は、これらの不正請求を「単なる経済的犯罪(税金の泥棒)」としてだけでなく、「患者を過剰な麻酔や感染症、血管破裂などの重大な医療リスクにさらす悪質な行為」として厳しく非難し、摘発を強めています

我が国においても内シャント治療が不適切に提供されていないのか自省する必要があります。じっさい、内シャント治療は病院のドル箱になっていますので、アメリカ同様に営利追求のツールになってしまっているのが現実です。


令和8年度診療報酬改定では、その他の場合として安い診療報酬が新設されました、この背景には内シャントPTA件数の異常な伸びに対する警鐘が込められています。
経皮的シャント拡張術・血栓除去術(VAIVT)
初回(透析シャント閉塞または高度狭窄):12,000点
初回(その他の場合):9,840点
2014年には11万件/年であった内シャントPTA件数は、急激に増加し、2023年にはなんと25万件/年まで、内シャントPTA件数が不自然に増加しています。

診療報酬データベースに基づく、2014年から2024年の内シャントPTAの県別増加率をみてみましょう。
埼玉、東京、大阪では、2014年から2024年の内シャントPTA件数がなんと300%超えになっています。
この異常な増加が適切なものなのかについては精査が必要ですが、地域差からみても受け入れがたいものがあります。


  私は以前より高齢者の内シャント閉塞は生理的生体防御反応であると考えています。そして、高齢者においては内シャントPTAを反復するのはやめて、腹膜透析に切り替えるべきと主張しています。
 1966年に発表されたBrescia-Cimino 内シャントによって、安定したバスキュラーアクセスが可能となり、維持血液透析への道が開かれた。しかし、現在のような透析患者の高齢化とそれに伴う諸問題は、当時は予測すらしていなかったでしょう。
 近年、内シャントは、心不全の一因であると考えられるようになっている。体毛細血管とそれに関連する血管抵抗 (SVR) をバイパスするため、心拍出量 (CO) の増加に直接寄与し高出力心不全を容易に引き起こしてしまうためである。特に、人工血管や肘部内シャントは高流量になりやすく、心不全リスクが高まります(1)。
 過剰シャント血流による弊害は、心不全だけでなく、脳虚血・脳うっ血にも及び、認知症にも影響があることが指摘されています(2)。
 高齢者の内シャント狭窄は、不自然に流れないで欲しいという、正常な生体防御反応と捉えることもできます。
 内シャント過剰血流やアクセス不全の対応策として、高齢者においては血液透析から腹膜透析への療法変更も検討すべきです。
 自験例でも、過剰血流内シャントによる心不全患者に腹膜透析を導入し、内シャント結紮を行うことで、心機能が改善するのみならず、頚動脈血流も増加し認知症状改善を認めた症例を複数経験している。肝硬変難治性腹水患者では肝動脈血流量が改善し、腹水も減少します。
 腹膜透析は、在宅療養が容易であり、循環動態に与える影響も少なく、患者・介助者・医療者のすべてにおいて穏やかなケアを可能とします。
(1) Rao N.N., Dundon B.K., Worthley M.I., Faull R.J. The impact of arteriovenous fistulae for hemodialysis on the cardiovascular system. Semin Dial. 2016;29:214–221.
(2) Findlay MD, Dawson J, Quinn T, Mark PB. Investigating the Relationship between Cerebral Blood Flow and Cognitive Function in Hemodialysis Patients. J Am Soc Nephrol. 2019 Jan;30(1):147-158. 





2026年6月22日月曜日

介護保険認定の取り下げについて Withdrawal of Long-Term Care Insurance Certification

 介護度の低い患者さんで介護保険が足かせになりアシストPDケアプランが策定困難、もしくは導入後ADL改善によって介護保険サービス不要になった場合、介護保険は取り下げ、医療保険に切り替えたほうが良いケースがあります。 とくに、頻回の訪問看護サービスが必要なアシステッドPDにおいては、医療訪看の活用が必要になる場面が多いと思います。

ご存知の通り、特別訪問看護指示書は「頻回な訪問看護が必要である」と医師が認めたときに限り交付可能で下記のようなケースに限られており、ケアマネや訪問看護に連続交付を依頼されることがありますが、連続交付は原則として認められていません。

  • 急性増悪時(急性感染症など)
  • 末期の悪性腫瘍等以外の終末期
  • 退院直後
「漫然とした」特別訪問看護指示書の発行は、厚生労働省が定める監査・指導において最も厳しくチェックされる項目の1つです。
明確な医学的根拠や状態の悪化がないにもかかわらず、高頻度の訪問を継続する目的で指示書が発行された場合、不正請求や算定要件違反とみなされ、診療報酬返還が指示されることがあります。

以前、要介護認定の取り消しについては対応が各市町村で迷走していた時期がありましたが、 平成30年度診療報酬改定時のQ&Aにて認める旨の厚生労働省の疑義照会返答あり、各市町村で対応可能となっています。

背景には介護保険財政負担増に伴い、介護度改善(によって介護保険利用が減ること)が評価されるようになったことがあげられます。 https://gemmed.ghc-j.com/?p=31058

市町村窓口担当者やケアマネに周知徹底されていないこともあるようですので、下記の根拠を伝えてみてください。
平成30年度診療報酬改定時のQ&A(18.9.11 老人保健事業及び介護予防事業等に関する Q&A (追加・修正) vol.2 〔3〕) 要支援・要介護認定を受けている者が、自主的に認定の取下げを届け出た場合は、特定高齢者と見なすことができるが、この取扱いについては、介護保険法第31条及び第34条に規定する要介護認定等の取消として取り扱うものである。 取り消し届け出のひな型も最後のページにありますので参考にしてみてください https://www.wam.go.jp/wamappl/26KYOTO/26bb01kj.nsf/6b16380d97f55135492567d0000714b4/0abd724ba2b0031b492571e80006e067/$FILE/%E8%80%81%E5%81%A5%E5%8F%8A%E3%81%B3%E4%BA%88%E9%98%B2Q&A(vol2)(860KB).pdf 市町村によっては申請書ひな型をHPに上げてるところもあります 鹿児島市 要介護(要支援)認定を受けている人が、医療対応等の理由により認定の取消しを希望する場合に提出していただく申請書です。 http://www.city.kagoshima.lg.jp/kenkofukushi/chouju/kaigohoken/kenko/fukushi/kaigo/download/shinse-10.html 神戸市 要介護(要支援)認定の有効期間中に、状態が改善した等の事情により、介護サービスを利用する予定がなくなるなど認定自体が不要となった場合は、認定の取下げ手続きを行います。 https://www.city.kobe.lg.jp/a46210/kenko/fukushi/carenet/nintei_guide/shinseidaikou_c10.html 介護保険の認定取り下げによって担当ケアマネが外れることを心配する声もありますが、もともと介護が低いケースでは介護保険利用するよりも、介護用具リースや地域生活支援事業を活用しながら別表8在宅透析による医療訪看を活用したほうがメリットが大きい場合が多いです


ただし、当然のことながら、ケアマネが担っていたさまざまな生活支援や調整業務について、医療保険に切り替えたのちは、医療者(医師・看護師・MSWなど)が目配りしてゆく必要があります。また、病状推移や老衰が進行して、再度、本当に介護保険が必要となったときの適切な対応・調整も見通しながらケアマネと連携しつつ診てゆくことが求められます。

2026年6月19日金曜日

中国で遺伝子改変ブタの肝腎同時移植がヒト脳死患者に対し行われた 广西医科大学 第二附属医院 Chinese team achieves world's first combined pig liver and kidney transplant in human; Second Affiliated Hospital of Guangxi Medical University

これまでも遺伝子改変ブタを用いた異種移植ヒト臨床の話題を取り上げてきた

2025年2月3日 United Therapeutics Corporation UKidney™の臨床試験をFDAが承認https://kagoshimapd.blogspot.com/2025/02/202523-united-therapeutics-corporation.html

遺伝子改変ブタ腎移植アップデート 中国でも始まった Gene-Modified Pig Kidney Transplantation Update, Also started in China.
https://kagoshimapd.blogspot.com/2025/03/blog-post.html

2026年 広西チワン族自治区南寧市にある广西医科大学 第二附属医院から6つの遺伝子編集を施したブタから53歳のヒト脳死患者への、肝臓と両側腎臓の同時移植(異種移植)(xeno-CLKT)の症例が報告された
First human decedent model of orthotopic multi-organ xenotransplantation: Whole liver and bilateral kidneys from a six-gene-edited pig
Med Volume 7, Issue 6, 12 June 2026
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666634026001510

これは世界初の遺伝子編集ブタからヒト(脳死)への肝腎同時移植の報告

論文によると超急性拒絶反応なく、約5日間は肝腎機能を維持したとのこと

S100A12陽性好中球が初期免疫エフェクターの鍵となる細胞として同定された
S100タンパク質ファミリーは、細胞種特異的に発現し、2つのEF-handを持つカルシウム結合タンパク質であり、現在までに 20種類のファミリーが確認されている。細胞内シグナル伝達だけでなく、細胞外に分泌され機能することも知られている。S100タンパク質ファミリーの機能は、複雑で多岐に渡っていると考えられており、未解明の部分が多く残されています。近年、糖化タンパク質AGEの受容体であるRAGEの新規リガンドとしてS100タンパク質が報告されている。
S100A12は炎症反応において重要な役割を果たすカルシウム結合タンパク質であり、炎症反応の惹起や敗血症、また動脈硬化の病態生理にも深く関与していることが知られている

移植後のメタボロームプロファイルは、レシピエントのベースラインからのわずかな変化を示したのみであった

中国における異種移植の進歩は予想を超えたスピードで進展しているようです








2025年10月23日木曜日

家族によるバッグ交換 医療行為の違法性阻却について

バッグ交換家族も可能 2025年10月16日 公明党HP
https://www.komei.or.jp/komeinews/p458470/ 
 患者自ら在宅で透析液を交換する腹膜透析を巡って鰐淵洋子厚生労働副大臣(公明党)は15日、患者の代わりに家族が交換することについて「やむを得ない場合は可能」との見解を表明した。在宅血液透析患者の穿刺も同様の考えを示した。厚労省で日本腹膜透析医学会の水口潤理事長らから要望を受け、答弁した。 

  もともと、喀痰吸引や経管栄養は、家族が行う医療行為として認められていますが、腹膜透析のバッグ交換も同様に家族が行ってきたのです 
とくに、小児PDでは母親が手技を行うのは当然でした 
それをいまさら、なんのための発表かと皆いぶかしがっていると思います 

 実際、日本においては、高齢腹膜透析患者さんのうち約10%がその手技を介助者に頼っており、その内訳としてご家族による介助が80%,看護師の介助が15%という報告があります。これについても特段問題視されてきたことはなかったのです。
 高齢化する腹膜透析患者の透析実態に関するアンケート調査 日下ら 透析会誌50(2):139~146,2017 

 国際的にも、アシステッドPDの腹膜透析実施者については、当ブログの記事でも紹介した通りです。アシステッドPDの実施者はカナダ・イギリス・中国では研修を受けたヘルパーも可能なのです

 日本でもかつではヘルパーによる手技施行も行われていましたが、医療行為ということで現在では行われなくなっています。今後、人口減少高齢化にともなう医療供給の縮小が見込まれていますので、再検討されるべきだと考えています。

 腹膜透析手技をヘルパーにも施行してもらうためには、無料で技能講習会やればよいのです(当然、講師はボランティアで)  

 また、さらりと書いてありますが、家族による在宅血液透析の穿刺も容認しているようですが これまでの議論との整合性はどうなるのでしょうか? 
副大臣が経緯を知らないのをいいことに明言させてしまったように感じました 

在宅血液透析管理マニュアル改訂の経緯と論点

 参考まで、家族による医療行為はなぜOKなのかについて、下記が参考になると思います

 注排液や接続切り離しは医療行為ですので、基本的にはこの解釈に基づいて、家族による腹膜透析のバッグ交換も行ってきました

違法性の阻却(そきゃく)について 
 医師法第17条により、医療行為は医師の業務独占とされています。
また、保健師、助産師、看護師又は准看護師は医師の指示により「診療の補助」として行うことができます。 
 それでは、なぜ家族は日常的に医療的ケア(医療行為)をしてもOKなのか。 
平成17年に厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会協議会(中医協)から「医事法制における自己注射に係る取り扱いについて」という文章が出ています。 
 この条件は「インシュリンの自己注射について」書かれたものですが、家族による他の医行為についても、同様の理由で違法性が阻却されると考えられます。 

 参考文献 中医協 診-1-2 医事法制における自己注射に係る取り扱いについて(平成17年) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0330-7b.pdf 

 結論としては、「家族による医療行為は違法だが、一定の条件を満たしていれば違法性が阻却される」と考えられます 

1 医行為について 
 医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」 医業とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことです。 
 したがって、医師の業務独占とされている医行為は、看護師など一定の範囲で医師の業務独占を解除された有資格者が行う場合を除き、医師以外の者が医行為を行うことは原則として認められません。 看護師の業務 看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」です(保健師助産師看護師法第5条)。主治医または歯科医師の指示があった場合のみ、「診療の補助」として医行為を行うことができます(保健師助産師看護師法第37条) 

 2 患者自身が行う医療行為について 
 「医師法の趣旨」と「違法性の阻却」 たとえ患者本人による医行為であったとしても、医師法に照らして考えてみるとやはり「違法」ということになります。 しかし、「公衆衛生上の危害を防止することを目的」とする医師法の趣旨に照らし「違法性が阻却」されます。 

 3 家族が行う医療行為について 
 違法性阻却の条件 医師法違法だが、患者と特別な関係にある家族が行う場合には下記の条件を満たしていれば違法性が阻却されます。 

 目的が正当であること(患者の治療目的であること) 

 手段が正当であること(医師の判断に基づき、十分な患者教育、家族教育を行った上で、適切な指導及び管理の下に行われること) 

 法益侵害(危険の発生)よりも得られる利益(患者の通院負担の解消)が大きいこと 法益侵害の相対的軽微性(侵襲性が比較的低いこと、行為者は患者との関係において家族という特別な関係にある者に限られていること) 

 必要性・緊急性(医師が必要と判断していること。患者の通院負担を軽減する必要があると認められること)

令和7年12月18日 透析医学会より腹膜透析のバッグ交換に対する重要なお知らせが告示されました。
これまでも一般のバッグ交換は医療行為として在宅・施設では看護師によってアシステッドPDが行われており、「やむを得ない事情」として小児や高齢者において家族が行ってきており、上記のように違法性阻却と解釈してきていました。
改めて、なにか問題があったので、学会がこのようなアクションを取っているのか、法的解釈に変更があったのか、現場の混乱を避けるためにも、そのあたりも明示してほしいものです。


2025年6月8日日曜日

シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用しております
低栄養・緊急導入・高度尿毒症・糖尿病・ステロイド・超高齢など

しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よくご質問をいただきます。

2.重要な基本的注意  
    (4) 本品をポビドンヨードで長時間浸潤すると早く劣化するので、長時間接触は避けること。
ハヤシデラ PDカテーテル 添付文書 第10版 2024年8月改定
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04946685133212

 根拠は甲南病院からの古い報告だったと思います
うろ覚えですが、レントゲン不透過マーカーが劣化するとか?議論していた記憶があります
CAPDカテーテルの長期使用における質的形態的問題 1994

結論から述べると、シリコーンカテーテルへのヨード消毒剤の使用は気にせず使って良いと考えております。

まずは、ISPDガイドライン
実は、ヨードについては言及されていません。
そのかわり、ムピロシン軟膏とゲンタマイシン軟膏について記載があります
出口部ケアに連日塗布することを勧めている(1C)のに矛盾していますね
ISPDカテーテル関連感染症に関する勧告:2023年改訂
ムピロシンのポリエチレングリコール基剤がポリウレタン製カテーテルを劣化させる可能性
およびゲンタマイシンクリームがシリコン製カテーテルを劣化させる可能性が報告されており,軟膏やクリームとPDカテーテルとの接触は最小限に抑える必要があることにも注意すべきである(P207 右段)


ヨードによるシリコン劣化の記述は、古いCDCガイドラインに記述がありました
Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities (2008)の48ページ
ヨウ素またはヨウ素系消毒剤は、シリコンチューブに悪影響を及ぼす可能性があるため、シリコンカテーテルには使用しないように、と記載されているのですが
参照リンクは会社のFAQでしかもすでに削除されていますので、どんなもんかなというところですね
687.Medcomp. Medcomp Frequently Asked Questions. [This link is no longer active:www.medcompnet.com/faq/faq/html], 2000.
Uses. Besides their use as an antiseptic, iodophors have been used for disinfecting blood culture bottles and medical equipment, such as hydrotherapy tanks, thermometers, and endoscopes. Antiseptic iodophors are not suitable for use as hard-surface disinfectants because of concentration differences.
Iodophors formulated as antiseptics contain less free iodine than do those formulated as disinfectants 376.
Iodine or iodine-based antiseptics should not be used on silicone catheters because they can adversely affect the silicone tubing 687.

シリコン内部にヨードが浸透するわけでありませんし、実際、10年以上、イソジンゲルを使用している患者さんのカテーテルを観察しても特に劣化はみられません。
ということで、イソジン消毒液もイソジンゲルも気にせず使用して良いと考えています。

ちなみに、慶応大学中山先生たちより、出口部感染後の出口部ケアにイソジンシュガーを使用すると、再感染HR0.22と非常に有効であることが報告されています
Efficacy of sucrose and povidone–iodine mixtures in peritoneal dialysis catheter exit-site care
BMC Nephrology volume 25, Article number: 151 (2024) 


共同著者である国際医療福祉大学成田病院腎臓内科の内山清貴先生に伺うと、レビュワーからはシリコン劣化についてはとくになにもなく、ヨードの細胞障害性について質問があったそうです
イソジンシュガー(ユーパスタ軟膏)はヨード濃度が3%でありヨードを徐放性に放出するため、ヨードによる細胞障害性は低いと考えており、その観点からも、イソジン消毒液(ヨード濃度10%)よりも適していると考えているそうです。
Topical antimicrobial toxicity
Arch Surg. 1985 Mar;120(3):267-70. doi: 10.1001/archsurg.1985.01390270007001.
Sugar paste and povidone-iodine in the treatment of wounds
J Wound Care. 1996 Sep;5(8):364-5. doi: 10.12968/jowc.1996.5.8.364.

よく出口部処置に使用されているイソジンゲルは処方薬ではありませんので、病院供与もしくは患者購入が必要になっていますが、安価なものではありません(たった5gで456-737円 2025/6/8Amazon)

ユーパスタは適応病名である褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)があれば処方可能ですし、細胞障害性や創傷治癒の側面からもイソジンゲルをやめてユーパスタ軟膏による出口部処置に変更してみようと思いました
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071417





2025年4月21日月曜日

腹膜透析普及の障害と政策提言 Barriers to the prevalent of peritoneal dialysis and policy recommendations

  腹膜透析と血液透析の治療成績はほぼ同等であると言われているにもかかわらず、腹膜透析が普及していない原因についてはさまざま指摘されていますが、テクニカルにはいずれも克服できるものであると考えられています。
Epidemiology of peritoneal dialysis outcomes
Nature Reviews Nephrology volume 18, pages779–793 (2022)

 高齢者で手技が自立できないケースであっても、我が国の医療介護保険制度は世界的にみても優れているおかげで、訪問看護を活用したアシステッドPDでまったく問題なく行えます。
 腹膜透析を患者に適切に届けられていない最大の原因は、医療者側の怠惰であると指摘する声もあります(個人的にはそう考えています)。

 地域の大学医局や基幹病院を頂点とする医療教育ギルドにおいて、不幸にも低レベルな教育しか受けられなかった医療者が、第3者による監視もされないままに低レベル低価値医療を提供し続けていることに問題の本質があります。
 脳外科竹田くんの問題は、ことの大小はあれども、じつは日本の医療界、とくに選択肢が限られている地方では普遍的な側面でもあるのです。https://dr-takeda.hatenablog.com/

 
 公的医療である透析医療の方向性に大きな影響を与えるのは、政策・行政と診療報酬制度です。
 我が国では公的医療である透析医療が民間資本主導によって普及してきました。患者数が増加してゆく過程では良かったのでしょうが、患者数が減少しはじめ、需要に合わせたスケールダウンが必要になったいま、どこもうまく対応できていないようです。
 CHCP(https://www.chcp.jp/)やCUC(https://www.cuc-jpn.com/)といったヘルスケア領域に特化したM&A企業も血液透析領域の採算性の悪さに手を焼いているようです。裏を返すと、(私達の間では分かっていたことではありますが)透析業界は、透析管理医師の盆暮れ正月もない、一般人の想像を超えた個人的献身・犠牲のうえに成り立っていた、ということなのです(そしてこのようなことは継続不能なのです)。

 また、地域の血液透析ベッド数は入院ベッド数と同様、地域医療計画に組み込まれるべきです。現在のような血液透析開業のハードルが低い状況は、楽観的な見通しで透析クリニック開業ができてしまう結果、透析ベッドの過剰提供となりがちで、さらには血液透析への患者誘導につながっていると感じています。

地域の過剰病床にたいし減床補償がなされているように、血液透析ベッドの減床にたいしても、減床補償を検討してもらえるとスムーズなサイズダウンが進むのではないでしょうか。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05CT50V00C25A3000000/
 
 このようななか、血液透析に比べ腹膜透析は、少ない人員、土地建物・設備投資も不要であり、結果的に商業主義透析になりにくく、温和な在宅終末期も可能です。人口減少高齢化社会に最適な透析療法と言えるでしょう。

 腹膜透析普及という観点から、透析医療の抱えている課題と解決アイデア、それらを実行するためにどのような政策提言が可能なのか考えてみました。



 医療保険と介護保険の併用ができないため介護度が高くなると施設入所を選択せざるを得ない、PD患者でなくても要介護3くらいになると、自宅での生活が難しくなるので、同居家族がいなければ施設を検討することになります。

 昭和50年代後半(1980年代)から、核家族化と少子高齢化が進む中で、体力の低下や認知症が現れた高齢者の介護の問題が深刻になり、家族だけでなく、地域や社会全体で支え合う制度として、平成12年4月1日から「介護保険制度」が始まりました。
 地域包括ケアシステムとして、【病院から地域へ】の掛け声の下、地域の受け皿整備が行われてきました。



 しかしながら、介護保険制度自体は、そもそも家族の介護負担を軽減するために制度設計がなされた経緯があるため、独居や医療依存度の高い高齢者の増えている現状には適応しにくくなってきています。








 医療依存度の高い透析患者では、マル長を利用して入院するのが一番経済的負担が少ないので社会的透析入院となるわけです(ただし社会コストは最大)。
 特に、血液透析患者では、週3回の通院送迎問題があり、送迎車に自力で乗れない患者さんは送迎対象外となることもあって、社会的入院になり終末期まで病院生活を余儀なくされている現状があります。

 いっぽう、入院コストを在宅・施設入所コストに振り分けたほうが社会コストは安くなるのは自明です。
 たとえば、センター透析を在宅(腹膜)透析へ誘導することの経済効果を検証した、2012年 Ontario Renal Network Home Dialysis Initiativeにおいて、センター透析から在宅透析への誘導政策によって、在宅透析普及率は2012年21.9%から2019年26.2%に増加し、そのほとんどはPD、推定8000万カナダドル=82億4000万円(1カナダドル=103円)のコスト削減に成功しています。
 日本の場合、社会的入院コストが在宅に移行することで解消されることを考えると、さらに大きな社会コスト削減が患者さんのQOL改善とともにもたらせることになります。
 


 在宅・施設入所腹膜透析患者にたいし、医療保険と介護保険の併用(訪問看護を医療)を認めてもらえると、在宅生活継続や施設入所のハードルは下がります。(別表7の疾患)
 じっさい、筋ジストロフィーや頚髄損傷の患者さんがこの制度のおかげで、質の高い在宅生活を送ることができています。

 京都市や函館市のように自治体限定で認められている地域もあります。生活支援分は介護保険をベースにしたほうが地方財政負担が少なくなる、ということなのでしょう。

 ちなみに、後期高齢者医療制度における医療給付の財源は、公費が5割、現役世代からの支援金(国民健康保険や被用者保険等からの負担)が4割で、残りの約1割を被保険者の保険料。公費負担分は国:県:市町村が、それぞれ4:1:1の割合になります。




 しかし、いっぽうで、患者負担という意味では、入院のほうが安いことに変わりはないので、社会的入院よりも在宅・施設を選びやすくなるように、在宅や施設入所した場合の患者負担が入院よりも安くなるようにするか、もしくは社会的入院と認められるものは施設と同額の負担にまで引き上げるか、いずれか(もしくは両方)の対応が必要でしょう。
 透析病院が患者を囲い込まないようにするために、社会的入院透析をターゲットにさらに厳しい包括制度を導入することも必要かもしれません。

 医療依存度の高い患者の社会的入院を回避し、地域での支援制度として、フランスのHAD(在宅入院制度)は参考になります。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000003118


  この制度を活用することで、フランスでの腹膜透析は56%がアシステッドPDを利用しています。また、血液透析から腹膜透析への移行(いわゆるラストPD)が新規PD患者の8.6%を占めているそうです。


 日本では、軽症・老衰患者への訪問診療や訪問看護が過剰に行われていることが問題になっています。
ホスピス住宅「儲け至上主義」で不正行為が蔓延。最大手にも疑惑、手厚い看取りの制度が収益化手段に 印南 志帆 : 東洋経済 記者 2025/04/16 5:00

 人口減少高齢化によって、供給低下が著しい医療介護資源を有効活用するため、フランスを見習って、在宅支援診療所・訪問看護・施設はもっと医療依存度の高い患者のために働くべきなのです。

 在宅療養支援診療所は、軽症患者に頻回訪問を行う低密度診療によって、在宅バブルと言われるほどの利益をあげています。腹膜透析のようなきめ細かな(手のかかる)管理の必要な患者は敬遠されてしまう傾向にあります(タイパが悪い)。最近も、もともと在宅療養支援診療所が関わっていた高齢患者さんに腹膜透析を導入したのですが、退院後の介入継続を断られました。その理由は、在宅透析患者の経験がない、ということでした。なんのための訪問診療なのかと思いますが、そのような在支診にはもともと診る能力が疑わしいので、断ってもらってかえって良かったとも思います。

 在宅医療・訪問看護を真に必要な患者に提供するためには、下記がポイントになるでしょう。限られた医療資源・財源を有効に利用するために、早急な診療報酬の改善が必要だと考えています。
①慢性期・老衰を対象にしない
②管理できる患者数を制限する(総数規制)
③対象疾患を限定する

 


不適切な内シャントPTA 日本には善意の内部告発者(ホイッスルブロワー)はいないのか?

  私は以前より高齢者の内シャント閉塞は生理的生体防御反応であると考えています。そして、高齢者においては内シャントPTAを反復するのはやめて、腹膜透析に切り替えるべきと主張しています。 また、近年の都市部を中心とした内シャントPTA件数の異常な増加には、不適切な営利目的の過剰な治...