2026年8月19日水曜日

不適切な内シャントPTA 日本には善意の内部告発者(ホイッスルブロワー)はいないのか?

 私は以前より高齢者の内シャント閉塞は生理的生体防御反応であると考えています。そして、高齢者においては内シャントPTAを反復するのはやめて、腹膜透析に切り替えるべきと主張しています。
また、近年の都市部を中心とした内シャントPTA件数の異常な増加には、不適切な営利目的の過剰な治療提供が存在しており、厳格な監査適正化が必要と考えています。
アメリカでは内シャントPTAの不正請求が厳しく取り締まられてきましたが、その背景は、日本と酷似しており、紹介したいと思います。

アメリカの透析治療(特に内シャントなど血管アクセスの管理・手術)を巡っては、医療機関や専門クリニックが利益を最大化するために不要な手術や検査を繰り返し、政府の公的医療保険(メディケアなど)へ不正請求(詐欺行為)を行っていたとして、司法省(DOJ)から巨額の賠償金・和解金の支払いを命じられる事例が多発しています
Vascular Practice and Physician Agree to Pay More Than $6.73M to Settle False Claims Act Allegations of Unnecessary Vascular Interventional Procedures

1. 主な不正請求の手口
透析患者が血液透析を行うために作られる「内シャント(動静脈瘻)」などの血管アクセスは、詰まりや狭窄を起こしやすいため定期的な管理が必要です。悪質なクリニックはここを悪用し、以下のような手口で不正請求を行っていました。
2. 代表的な巨額賠償・和解事例
アメリカでは、内部告発者(ホイッスルブロワー)が政府に代わって訴訟を起こすことができる「虚偽請求取締法(False Claims Act)」が強力に機能しており、以下のような高額な和解が成立しています
摘発・和解時期対象となった医療機関・医師和解金・賠償金の額主な不正内容
2026年5月セラーノ腎臓・血管アクセスセンター(Dr. Feliciano Serrano)約673万ドル
(約10億円)
医学的基準を満たさない血管アクセス処置の実施、および狭窄度の誇張による虚偽請求。
2018年10月バスキュラー・アクセス・センターズ(VAC)最低3,825万ドル 〜 最大1,830万ドル
(最大約27億円)
メディケアの補償対象外である血管手術の請求、および請求を正当化するための医療記録の偽造。
2014年以降
(現在も係争中)
フレゼニウス・バスキュラー・ケア(Fresenius Vascular Care)各州および連邦政府から巨額の民事訴訟末期腎不全患者に対し、利益獲得とノルマ達成のために、不要なシャント手術や造影検査を組織的に繰り返した疑い。
(参考・過去)アメリカン・アクセス・ケア(AAC)120万ドル
(約1億8,000万円)
医学的に不要な血管拡張術(PTA)および血栓除去術の実施、過剰な回数の請求。
※日本円換算は目安です。







3. なぜこのような不正が起こるのか?
  1. 高い利益率
    透析そのものよりも、シャントのトラブルを治療する外科的・放射線科的処置(カテーテル治療など)の方が、医療機関にとって1回あたりの報酬・利益率が高く設定されているため、過剰診療の誘因になりやすい状況があります。
  2. 患者の脆弱性
    透析患者(特に高齢者や低所得者層)は週に何度も通院しており、医師の指示を拒否しにくいため、不要な手術であっても「シャントを長持ちさせるため」と言われると受け入れてしまう傾向にあります。
     
4. 社会的・医療的な問題点
司法省や各州の司法長官は、これらの不正請求を「単なる経済的犯罪(税金の泥棒)」としてだけでなく、「患者を過剰な麻酔や感染症、血管破裂などの重大な医療リスクにさらす悪質な行為」として厳しく非難し、摘発を強めています

我が国においても内シャント治療が不適切に提供されていないのか自省する必要があります。じっさい、内シャント治療は病院のドル箱になっていますので、アメリカ同様に営利追求のツールになってしまっているのが現実です。


令和8年度診療報酬改定では、その他の場合として安い診療報酬が新設されました、この背景には内シャントPTA件数の異常な伸びに対する警鐘が込められています。
経皮的シャント拡張術・血栓除去術(VAIVT)
初回(透析シャント閉塞または高度狭窄):12,000点
初回(その他の場合):9,840点
2014年には11万件/年であった内シャントPTA件数は、急激に増加し、2023年にはなんと25万件/年まで、内シャントPTA件数が不自然に増加しています。

診療報酬データベースに基づく、2014年から2024年の内シャントPTAの県別増加率をみてみましょう。
埼玉、東京、大阪では、2014年から2024年の内シャントPTA件数がなんと300%超えになっています。
この異常な増加が適切なものなのかについては精査が必要ですが、地域差からみても受け入れがたいものがあります。


  私は以前より高齢者の内シャント閉塞は生理的生体防御反応であると考えています。そして、高齢者においては内シャントPTAを反復するのはやめて、腹膜透析に切り替えるべきと主張しています。
 1966年に発表されたBrescia-Cimino 内シャントによって、安定したバスキュラーアクセスが可能となり、維持血液透析への道が開かれた。しかし、現在のような透析患者の高齢化とそれに伴う諸問題は、当時は予測すらしていなかったでしょう。
 近年、内シャントは、心不全の一因であると考えられるようになっている。体毛細血管とそれに関連する血管抵抗 (SVR) をバイパスするため、心拍出量 (CO) の増加に直接寄与し高出力心不全を容易に引き起こしてしまうためである。特に、人工血管や肘部内シャントは高流量になりやすく、心不全リスクが高まります(1)。
 過剰シャント血流による弊害は、心不全だけでなく、脳虚血・脳うっ血にも及び、認知症にも影響があることが指摘されています(2)。
 高齢者の内シャント狭窄は、不自然に流れないで欲しいという、正常な生体防御反応と捉えることもできます。
 内シャント過剰血流やアクセス不全の対応策として、高齢者においては血液透析から腹膜透析への療法変更も検討すべきです。
 自験例でも、過剰血流内シャントによる心不全患者に腹膜透析を導入し、内シャント結紮を行うことで、心機能が改善するのみならず、頚動脈血流も増加し認知症状改善を認めた症例を複数経験している。肝硬変難治性腹水患者では肝動脈血流量が改善し、腹水も減少します。
 腹膜透析は、在宅療養が容易であり、循環動態に与える影響も少なく、患者・介助者・医療者のすべてにおいて穏やかなケアを可能とします。
(1) Rao N.N., Dundon B.K., Worthley M.I., Faull R.J. The impact of arteriovenous fistulae for hemodialysis on the cardiovascular system. Semin Dial. 2016;29:214–221.
(2) Findlay MD, Dawson J, Quinn T, Mark PB. Investigating the Relationship between Cerebral Blood Flow and Cognitive Function in Hemodialysis Patients. J Am Soc Nephrol. 2019 Jan;30(1):147-158. 





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