2025年4月21日月曜日

腹膜透析普及の障害と政策提言 Barriers to the prevalent of peritoneal dialysis and policy recommendations

  腹膜透析と血液透析の治療成績はほぼ同等であると言われているにもかかわらず、腹膜透析が普及していない原因についてはさまざま指摘されていますが、テクニカルにはいずれも克服できるものであると考えられています。
Epidemiology of peritoneal dialysis outcomes
Nature Reviews Nephrology volume 18, pages779–793 (2022)

 高齢者で手技が自立できないケースであっても、我が国の医療介護保険制度は世界的にみても優れているおかげで、訪問看護を活用したアシステッドPDでまったく問題なく行えます。
 腹膜透析を患者に適切に届けられていない最大の原因は、医療者側の怠惰であると指摘する声もあります(個人的にはそう考えています)。

 地域の大学医局や基幹病院を頂点とする医療教育ギルドにおいて、不幸にも低レベルな教育しか受けられなかった医療者が、第3者による監視もされないままに低レベル低価値医療を提供し続けていることに問題の本質があります。
 脳外科竹田くんの問題は、ことの大小はあれども、じつは日本の医療界、とくに選択肢が限られている地方では普遍的な側面でもあるのです。https://dr-takeda.hatenablog.com/

 
 公的医療である透析医療の方向性に大きな影響を与えるのは、政策・行政と診療報酬制度です。
 我が国では公的医療である透析医療が民間資本主導によって普及してきました。患者数が増加してゆく過程では良かったのでしょうが、患者数が減少しはじめ、需要に合わせたスケールダウンが必要になったいま、どこもうまく対応できていないようです。
 CHCP(https://www.chcp.jp/)やCUC(https://www.cuc-jpn.com/)といったヘルスケア領域に特化したM&A企業も血液透析領域の採算性の悪さに手を焼いているようです。裏を返すと、(私達の間では分かっていたことではありますが)透析業界は、透析管理医師の盆暮れ正月もない、一般人の想像を超えた個人的献身・犠牲のうえに成り立っていた、ということなのです(そしてこのようなことは継続不能なのです)。

 また、地域の血液透析ベッド数は入院ベッド数と同様、地域医療計画に組み込まれるべきです。現在のような血液透析開業のハードルが低い状況は、楽観的な見通しで透析クリニック開業ができてしまう結果、透析ベッドの過剰提供となりがちで、さらには血液透析への患者誘導につながっていると感じています。

地域の過剰病床にたいし減床補償がなされているように、血液透析ベッドの減床にたいしても、減床補償を検討してもらえるとスムーズなサイズダウンが進むのではないでしょうか。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05CT50V00C25A3000000/
 
 このようななか、血液透析に比べ腹膜透析は、少ない人員、土地建物・設備投資も不要であり、結果的に商業主義透析になりにくく、温和な在宅終末期も可能です。人口減少高齢化社会に最適な透析療法と言えるでしょう。

 腹膜透析普及という観点から、透析医療の抱えている課題と解決アイデア、それらを実行するためにどのような政策提言が可能なのか考えてみました。



 医療保険と介護保険の併用ができないため介護度が高くなると施設入所を選択せざるを得ない、PD患者でなくても要介護3くらいになると、自宅での生活が難しくなるので、同居家族がいなければ施設を検討することになります。

 昭和50年代後半(1980年代)から、核家族化と少子高齢化が進む中で、体力の低下や認知症が現れた高齢者の介護の問題が深刻になり、家族だけでなく、地域や社会全体で支え合う制度として、平成12年4月1日から「介護保険制度」が始まりました。
 地域包括ケアシステムとして、【病院から地域へ】の掛け声の下、地域の受け皿整備が行われてきました。



 しかしながら、介護保険制度自体は、そもそも家族の介護負担を軽減するために制度設計がなされた経緯があるため、独居や医療依存度の高い高齢者の増えている現状には適応しにくくなってきています。








 医療依存度の高い透析患者では、マル長を利用して入院するのが一番経済的負担が少ないので社会的透析入院となるわけです(ただし社会コストは最大)。
 特に、血液透析患者では、週3回の通院送迎問題があり、送迎車に自力で乗れない患者さんは送迎対象外となることもあって、社会的入院になり終末期まで病院生活を余儀なくされている現状があります。

 いっぽう、入院コストを在宅・施設入所コストに振り分けたほうが社会コストは安くなるのは自明です。
 たとえば、センター透析を在宅(腹膜)透析へ誘導することの経済効果を検証した、2012年 Ontario Renal Network Home Dialysis Initiativeにおいて、センター透析から在宅透析への誘導政策によって、在宅透析普及率は2012年21.9%から2019年26.2%に増加し、そのほとんどはPD、推定8000万カナダドル=82億4000万円(1カナダドル=103円)のコスト削減に成功しています。
 日本の場合、社会的入院コストが在宅に移行することで解消されることを考えると、さらに大きな社会コスト削減が患者さんのQOL改善とともにもたらせることになります。
 


 在宅・施設入所腹膜透析患者にたいし、医療保険と介護保険の併用(訪問看護を医療)を認めてもらえると、在宅生活継続や施設入所のハードルは下がります。(別表7の疾患)
 じっさい、筋ジストロフィーや頚髄損傷の患者さんがこの制度のおかげで、質の高い在宅生活を送ることができています。

 京都市や函館市のように自治体限定で認められている地域もあります。生活支援分は介護保険をベースにしたほうが地方財政負担が少なくなる、ということなのでしょう。

 ちなみに、後期高齢者医療制度における医療給付の財源は、公費が5割、現役世代からの支援金(国民健康保険や被用者保険等からの負担)が4割で、残りの約1割を被保険者の保険料。公費負担分は国:県:市町村が、それぞれ4:1:1の割合になります。




 しかし、いっぽうで、患者負担という意味では、入院のほうが安いことに変わりはないので、社会的入院よりも在宅・施設を選びやすくなるように、在宅や施設入所した場合の患者負担が入院よりも安くなるようにするか、もしくは社会的入院と認められるものは施設と同額の負担にまで引き上げるか、いずれか(もしくは両方)の対応が必要でしょう。
 透析病院が患者を囲い込まないようにするために、社会的入院透析をターゲットにさらに厳しい包括制度を導入することも必要かもしれません。

 医療依存度の高い患者の社会的入院を回避し、地域での支援制度として、フランスのHAD(在宅入院制度)は参考になります。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000003118


  この制度を活用することで、フランスでの腹膜透析は56%がアシステッドPDを利用しています。また、血液透析から腹膜透析への移行(いわゆるラストPD)が新規PD患者の8.6%を占めているそうです。


 日本では、軽症・老衰患者への訪問診療や訪問看護が過剰に行われていることが問題になっています。
ホスピス住宅「儲け至上主義」で不正行為が蔓延。最大手にも疑惑、手厚い看取りの制度が収益化手段に 印南 志帆 : 東洋経済 記者 2025/04/16 5:00

 人口減少高齢化によって、供給低下が著しい医療介護資源を有効活用するため、フランスを見習って、在宅支援診療所・訪問看護・施設はもっと医療依存度の高い患者のために働くべきなのです。

 在宅療養支援診療所は、軽症患者に頻回訪問を行う低密度診療によって、在宅バブルと言われるほどの利益をあげています。腹膜透析のようなきめ細かな(手のかかる)管理の必要な患者は敬遠されてしまう傾向にあります(タイパが悪い)。最近も、もともと在宅療養支援診療所が関わっていた高齢患者さんに腹膜透析を導入したのですが、退院後の介入継続を断られました。その理由は、在宅透析患者の経験がない、ということでした。なんのための訪問診療なのかと思いますが、そのような在支診にはもともと診る能力が疑わしいので、断ってもらってかえって良かったとも思います。

 在宅医療・訪問看護を真に必要な患者に提供するためには、下記がポイントになるでしょう。限られた医療資源・財源を有効に利用するために、早急な診療報酬の改善が必要だと考えています。
①慢性期・老衰を対象にしない
②管理できる患者数を制限する(総数規制)
③対象疾患を限定する

 


2025年4月3日木曜日

ミニマム創テンコフカテーテル留置術 Minimal Wound Tenchoff Catheter Placement

 当院では、局所麻酔&腹壁ブロック+プレセデックス鎮静による、小開創テンコフカテーテル留置術を採用してきました。手術時間は20-30分程度、特別な機器も必要とせずカテーテルトラブルも少ない安定した術式です。

 さらなる術式改良を目指し、低侵襲な術式の改善を模索してきました。
 最近、腹直筋前鞘切開延長を行わない、ミニマム創テンコフカテーテル留置術を開発しました。優れた術式と思われますので簡単に紹介したいと思います。(近日中に動画もアップします)
 手術時間は15-25分、術創は2-3cmとラパロポートひとつ分です。小さな創で腹直筋をスプリットしないため術後疼痛もかなり軽減されます。

 セルジンガー法と比較しても、安全で早く低コストと三拍子そろった優れた術式と考えています。
 オペ室スタッフからも、エコーとCアーム準備する手間もなく、というより準備する間もないくらい短時間で終わってしまうので、セルジンガー法よりもミニマム創のほうが圧倒的に支持されています。

 安全性の面から、気管切開がセルジンガー法からハイブリッド法(気管前面露出)、ラパロのファーストポートが穿刺法から直視法が主流となったように、テンコフカテーテルも開腹操作までは直視下が推奨されると考えています。

 視野を確保するために腹直筋後鞘に支持糸をかけ、それをカフ下縁の固定および切開孔縫縮に使用することが要点です。カテーテルをしっかり寝かせることもできます。
術中にリークテストを行い、術当日から貯留開始し(Urgent start)、術翌日からは1.5Lのフル貯留を行うことができます。

 ポイントは下記になります、従来の手技の延長で簡単にできます。

  1. 腹直筋前鞘切開の延長は行わない
  2. 深部カフ上のみのミニマム切開
  3. 腹直筋後鞘に支持糸3-4針かけ吊り上げ
  4. 腹膜切開は最小
  5. タバコ縫合は行わない
  6. カフ下縁のZ縫合を支持糸を用いて行う
  7. カテーテル腹直筋後鞘固定は行う
  8. トンネラーにて腹直筋背側を通し前鞘を貫通
  9. トップカフ切開部へトンネラーで誘導
腹直筋前鞘切開を延長しないため
その分手術操作が短縮
皮膚切開・腹直筋スプリットは最小限
術後痛も少なくなります
カテ先端を恥骨上縁より2-4cm下におき
深部カフポジションを決定
コツ:皮下脂肪厚いときはやや頭側にする
支持糸は結紮したときに縫縮されるよう
切開予定部を中心に円を描くよう3-4針かけ
結紮せずモスキートで把持しておく
コツ:1針で腹直筋後鞘に3バイトずつ運針
創が小さいため腹壁に沿わせやすいように
足側腹壁を筋鈎でしっかり引き上げ挿入する
ポイント:カフが皮膚に接触しないよう注意
針を残しておいた支持糸を使用しカフ下縁にZ縫合
結紮することで切開孔が縫縮される
リークテスト200mlおこない
必要に応じ追加縫合
カテを寝かせるため後鞘前面に縫合固定
先端鈍弱弯トンネラーを腹直筋背側に沿わせ
ブラインド操作で前鞘を適切な位置で貫通
トップカフ固定予定切開部まで皮下を誘導
コツ:トップカフ位置が創直下にならぬよう
カフは皮膚接触避け消毒しておく(感染予防)

続いて出口部まで皮下を誘導
当院では上腹部肋骨弓上出口で行っている
術当日0.5Lで洗浄し問題なければ1.0L貯留
翌日からは1.5Lフル貯留開始
コツ:少しくらいの出口部出血は焼かずに圧迫で止血

シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用 しております 低栄養・ 緊急導入・ 高度尿毒症・ 糖尿病・ ステロイド・ 超高齢など しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よ...