2025年2月24日月曜日

毎年74%の透析患者がシャントトラブル発症し治療に400億円以上 ★シャントPTAたった1回分の手術コストで腹膜透析に切り替え可能 Vascular access dysfunction incidence and cost among Japanese dialysis patients

 Vascular access dysfunction incidence among Japanese dialysis patients from NDB Open Data Japan

Kenta T. Suzuki, Kiyoshi Naemura & Yuichi Sakumura

Scientific Reports volume 15, Article number: 6523 (2025) 

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8

奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型生物学教室から内シャント治療に関する興味深い論文が出ました

https://www.sakulab.org/home


2020-2022年度のNDB Openを使用し請求コードに基づいて、年間VA機能障害率と3か月再発率を計算。平均年間VA機能障害率は74.0%で、3か月再発率は16.9%であった。女性と高齢患者では、その割合が高く年齢は 正の相関関係にあった (ρ = 0.827–0.941)。

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/tables/1

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/figures/1

VA 機能障害率は都道府県によって異なっており、治療介入にかなりの地域差があるようですね。愛知県や中部地方と宮城県が多いようです。

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/figures/2


Kコードの分析なので重複カウントによって内シャント機能障害率がオーバーカウントされていると感じましたが治療数の把握にはなり、改めて内シャント機能障害によるPTA医療費が莫大な額になっていることがわかります。


手技料だけで

(184,008+37,590)件*120,000円=265億9176万円

いちばん安いデバイスで医療材料を計算

(184,008+37,590)件*(バルーン37,800円+ガイドワイヤー13,700円)=114億1229万円

足すと、手技料と医療材料の最低値概算で380億405万円という莫大な額になり、実際は400-500億円以上になることが推測されます。

PTA以外にも下記にて請求するケースもあり、これらを追加するとさらに増えるでしょう。

内シャント血栓除去術 3590点

四肢の血管拡張術・血栓除去術 22,590点

内シャント造設術 12080点

人工血管内シャント造設術 30290点

上腕動脈表在化法 5000点


シャントPTAたった1回分の手術コストで腹膜透析に切り替え可能です、追加治療も不要です。

血管に乏しい高齢者にはますます腹膜透析を勧めるべきです。

K653-3 テンコフ留置術 12000点


透析医学会でも内シャント治療のセッションは立ち見が出るほど大盛況です。それだけ、トラブルが多いということなのです。

シャントPTAは病院のドル箱になっており、病院経営が厳しい昨今、手放したくないのもわかりますが、患者中心医療の時代ですので、患者に苦痛を与え社会コストを押し上げる治療は一刻も早くやめるべきです。

2025年2月17日月曜日

非がん患者への緩和ケア提供は大切だが死への誘導にならぬようきわめて慎重に行うべき Liverpool Care Pathway から学ぶこと Providing palliative care to non-cancer patients is important, but should be done very carefully so as not to lead to death. Lessons Learned from the Liverpool Care Pathway.

1990年代後半、病院や施設での終末期対応があまりにもお粗末ということで、ホスピス緩和ケアの手法を一般病院や施設でパスとして使用できるように、イギリスの国立リバプール大学病院マリーキュリーホスピスで開発されたのがリバプールケアパスウェイ(LCP)です
2003年にイギリスNHSで制度化されました

ところが、実際に運用してみると、下記のような問題が明らかになりました
  • 高齢患者に機械的に適用され、鎮静と脱水によって手間をかけずに死なせるための手順書と化してしまっているとの告発
  • まだかなり生きられる高齢患者がLCPによって殺されている可能性が高いこと
  • エビデンスもなしに始められるLCPは、もはやケア・パスというよりも幇助死パスウェイと化してしまっていること

2009年 死への誘導を医療減らしのために政府が支援しているとタブロイド紙やBBCがアンチLCPキャンペーンをはり

2013年 第3者評価機構によるLCP運用不適切との評価勧告を受けイギリスでは使用中止勧告となった

実は日本でも、2010年 LCP日本語版のリリースがありましたが、上記のような経緯で普及していないようです

緩和ケアの手法が不適切に提供されると、死への誘導が行われる可能性が高いという事実です

現在の日本における医療界の倫理観は史上最低レベルに堕落しています
緩和ケアという名の薬漬けが常態化していることは周知の事実です

睡眠薬で高齢者を「寝かせきり」病院・施設の闇 2021/1/23 東洋経済オンライン
「父を助けてください」向精神薬で“廃人”にされた親、老人ホーム施設長のあぜんとする本音 2021/01/03 サイゾーウーマン

よっぽどな監視・ブレーキがないと危険だと感じます

医療・介護の性善説に基づく管理は、完全に失敗しており、もっと厳しい外部監視の目が必要なことは自明なのです
医療介護も、世襲ファミリービジネス化しており、独裁王国のような独善体制を築いていることが多いです
良心的な医師や職員が批判すると、様々な理由(パワハラ・職務怠慢など)をつけて退職に追いやられます
令和5年4月より、医療法人の決算書や事業計画書がインターネット上で公表されるようになりました
貸借対照表や損益計算書の詳細をみると、ファミリーが驚くほど利益の多くを取っている事実があります

そもそも、高額な公的治療の提供を、医師個人が判断出来ること自体が間違っているのです
医療や介護は算術では無い、高齢者を食い物にするのはやめるべき
本人の意思、本人の内なる声に耳を傾けるべきなのです

ナチス優生思想に基づいた医師による障害者などの安楽死関与の反省・批判から、ドイツの刑法学者 Karl Engisch (1948)は「生きる価値のない生命の抹殺の刑法的理論」にて安楽死の概念について述べており、我が国における安楽死の議論にも大きな影響を与えました

純粋の安楽死
        死苦緩和の措置が死期を早めるまでには至らない行為
間接的安楽死
        死苦緩和の措置が意図しない副作用として死期の短縮をもたらす行為
不作為による安楽死
医療を引き受けないという不作為によって死期を早める行為
積極的安楽死
患者の生命を断つことにより死苦を免れさせる行為
生きる価値のない生命の抹殺(不任意の安楽死)
障害者などに本人の意思に関係なく憐れみによる死を与える行為

Karl Engischは、医師は患者を保護する者であり、社会的淘汰の手先になってはならない。人間の生命の保護が社会の経済状態との関係で相対化されることはグロテスクであると。
まさにこのことですね

児玉真美さんが2014年にまとめられていますが、いまあらたに共感を持って再読いたしました
「どうせ高齢者」意識が終末期ケアにもたらすもの――英国のLCP調査報告書を読む
2014年1月10日 SYNODOS

今読み返すと彼女の指摘は実臨床の感覚に近く、正鵠を得ているように感じます
(以下抜粋)
過剰医療への批判⇒「いかに終末期医療を受けずに死ぬか・死なせるか」という議論になりがち
「いかにして終末期医療を受けずに死ぬか・死なせるか」ではなく
「いかに終末期医療を改善するか」であり
「いかにすれば個々の患者の個別性に応じて、終末期を苦しくないものにできるか」

公費による高齢者医療介護で「延命」よりも「死生観の見直しによる穏やかな最期」にシフトする時期であることは間違いありませんし、社会的入院血液透析がディストピアの極地であることも間違いないことではあります

私達の提供している緩和的腹膜透析の立ち位置がより明確になったように感じます

2025年2月5日水曜日

2025年2月3日 United Therapeutics Corporation UKidney™の臨床試験をFDAが承認

 2024年3月16日 MGH & eGENESISは遺伝子改変ブタ腎臓のヒトへの移植に成功したと発表しました

2024年4月12日 残念ながら拒絶反応や異種感染症以外の原因で患者死亡と発表されていました

遺伝子改変ブタの開発は世界的な競争が行われています

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™は10個の遺伝子を改変した遺伝子改変ブタを作成

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™の前臨床試験はジョンズ ホプキンス大学の山田和彦とアンドリュー M. キャメロンによって行われました

バージニアにある臨床グレードSPF環境の遺伝子改変ブタ飼育場では年間125臓器の出荷が可能で、現在、ミネソタ州にさらに建設中だそうです


2024年11月25日 ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を移植する初の異種腎移植に成功しました

https://ir.unither.com/press-releases/2024/12-17-2024-120130031

レシピエントはアラバマ州に住む53歳女性 Towana Looney

母親に生体腎移植ドナーとして腎提供後、妊娠高血圧を契機として腎不全となり透析導入されていたが、クロスマッチ陽性のために腎移植が受けれない状況であったそうです

UKidney™異種腎移植はNYU Langone HealthのRobert Montgomeryにより執刀されました

術後2ヶ月、腎機能は問題なく、異種感染の兆候もないということでした

https://apnews.com/article/pig-kidney-transplant-xenotransplant-nyu-alabama-021afcc9697a0a490c0d0726482515b4


2025年2月3日 United Therapeutics Corporation (Nasdaq: UTHR)からUKidney™ 異種腎移植の臨床試験計画がFDAの承認を得たとHP上で発表されました

2025年半ばに開始され、当初は6例、その後は60例まで、第 1 相/第 2 相/第 3 相複合試験 (フェーズレススタディ)を行う予定のようです

2 つのグループにおける UKidney の安全性と有効性を評価することを目的としています

対象患者は年齢 55-70 歳、ESRD の診断、少なくとも 6 か月間の血液透析であることと下記のいずれかの要件を満たしていることです

①医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと評価され、判断されたESRD患者

②腎移植の待機リストに載っているが、5年以内に脳死腎移植を受けるよりも死亡するか、移植を受けられない可能性が高いESRD患者

有効性エンドポイントには、参加者の生存率、UKidney のグラフト生存率、糸球体濾過率、および移植後 24 週間の参加者の生活の質の変化が含まれます。UKidney を受け取った参加者の全生存期間と UKidney 自体の全生存期間も有効性エンドポイントです

安全性エンドポイントには、有害事象および重篤な有害事象の発生率、全死亡率、タンパク尿、人獣共通感染症、日和見感染症の発生率が含まれます

腎不全医療に革命的な変化を起こす可能性のある異種腎移植が現実化してきました
異種感染症や慢性拒絶がクリアできるのか

経緯を見守ってゆきたいと思います

--------------------------------------------------------------------------------

2025.04.13 CNN 遺伝子改変ブタの腎移植、130日間の最長記録を樹立 米女性
https://www.cnn.co.jp/usa/35231720.html
CNNは前向きなタイトルをつけているが、遺伝子改変ブタ腎移植、急性拒絶によるグラフトロスのニュース
2024年11月25日 Towana Looney(53) ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を用いた遺伝子改変ブタ腎移植
2025年4月4日 感染症治療のため免疫抑制剤を減量したところ、急性拒絶反応を発症しグラフトロスのため移植腎摘出
感染症は異種感染症とは無関係と報道されているが詳細は不明

シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用 しております 低栄養・ 緊急導入・ 高度尿毒症・ 糖尿病・ ステロイド・ 超高齢など しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よ...