https://www.komei.or.jp/komeinews/p458470/
患者自ら在宅で透析液を交換する腹膜透析を巡って鰐淵洋子厚生労働副大臣(公明党)は15日、患者の代わりに家族が交換することについて「やむを得ない場合は可能」との見解を表明した。在宅血液透析患者の穿刺も同様の考えを示した。厚労省で日本腹膜透析医学会の水口潤理事長らから要望を受け、答弁した。
もともと、喀痰吸引や経管栄養は、家族が行う医療行為として認められていますが、腹膜透析のバッグ交換も同様に家族が行ってきたのです
とくに、小児PDでは母親が手技を行うのは当然でした
それをいまさら、なんのための発表かと皆いぶかしがっていると思います
実際、日本においては、高齢腹膜透析患者さんのうち約10%がその手技を介助者に頼っており、その内訳としてご家族による介助が80%,看護師の介助が15%という報告があります。これについても特段問題視されてきたことはなかったのです。
高齢化する腹膜透析患者の透析実態に関するアンケート調査 日下ら 透析会誌50(2):139~146,2017
国際的にも、アシステッドPDの腹膜透析実施者については、当ブログの記事でも紹介した通りです。アシステッドPDの実施者はカナダ・イギリス・中国では研修を受けたヘルパーも可能なのです
日本でもかつではヘルパーによる手技施行も行われていましたが、医療行為ということで現在では行われなくなっています。今後、人口減少高齢化にともなう医療供給の縮小が見込まれていますので、再検討されるべきだと考えています。
また、さらりと書いてありますが、家族による在宅血液透析の穿刺も容認しているようですが
これまでの議論との整合性はどうなるのでしょうか?
副大臣が経緯を知らないのをいいことに明言させてしまったように感じました
在宅血液透析管理マニュアル改訂の経緯と論点
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/36-1/36-1_125.pdf
在宅血液透析研究会ガイドライン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshhd/4/1/4_17/_pdf/-char/ja
参考まで、家族による医療行為はなぜOKなのかについて、下記が参考になると思います
注排液や接続切り離しは医療行為ですので、基本的にはこの解釈に基づいて、家族による腹膜透析のバッグ交換も行ってきました
違法性の阻却(そきゃく)について
医師法第17条により、医療行為は医師の業務独占とされています。
また、保健師、助産師、看護師又は准看護師は医師の指示により「診療の補助」として行うことができます。
それでは、なぜ家族は日常的に医療的ケア(医療行為)をしてもOKなのか。
平成17年に厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会協議会(中医協)から「医事法制における自己注射に係る取り扱いについて」という文章が出ています。
この条件は「インシュリンの自己注射について」書かれたものですが、家族による他の医行為についても、同様の理由で違法性が阻却されると考えられます。
参考文献
中医協 診-1-2 医事法制における自己注射に係る取り扱いについて(平成17年)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0330-7b.pdf
結論としては、「家族による医療行為は違法だが、一定の条件を満たしていれば違法性が阻却される」と考えられます
1 医行為について
医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」
医業とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことです。
したがって、医師の業務独占とされている医行為は、看護師など一定の範囲で医師の業務独占を解除された有資格者が行う場合を除き、医師以外の者が医行為を行うことは原則として認められません。
看護師の業務
看護師の業務は「療養上の世話」と「診療の補助」です(保健師助産師看護師法第5条)。主治医または歯科医師の指示があった場合のみ、「診療の補助」として医行為を行うことができます(保健師助産師看護師法第37条)
2 患者自身が行う医療行為について
「医師法の趣旨」と「違法性の阻却」
たとえ患者本人による医行為であったとしても、医師法に照らして考えてみるとやはり「違法」ということになります。
しかし、「公衆衛生上の危害を防止することを目的」とする医師法の趣旨に照らし「違法性が阻却」されます。
3 家族が行う医療行為について
違法性阻却の条件
医師法違法だが、患者と特別な関係にある家族が行う場合には下記の条件を満たしていれば違法性が阻却されます。
目的が正当であること(患者の治療目的であること)
手段が正当であること(医師の判断に基づき、十分な患者教育、家族教育を行った上で、適切な指導及び管理の下に行われること)
法益侵害(危険の発生)よりも得られる利益(患者の通院負担の解消)が大きいこと
法益侵害の相対的軽微性(侵襲性が比較的低いこと、行為者は患者との関係において家族という特別な関係にある者に限られていること)
必要性・緊急性(医師が必要と判断していること。患者の通院負担を軽減する必要があると認められること)
