2024年12月23日月曜日

難治性腹水・悪性腹水の症状緩和目的のテンコフカテーテル留置

欧米では2010年ころから悪性腹水管理にテンコフカテーテルの有用性の報告があります Palliative Treatment Of Malignant Ascites Journal of Palliative Medicine. August 2010: 1028-1029. Tunneled peritoneal drainage catheter placement for refractory ascites: a single-center experience in 189 patients Society of Interventional Radiology 2013 私も2015年に自験例を発表しました 悪性腹水に対しテンコフ留置が奏効した1例 第32回九州CAPD検討会 2015年 7月 18日 (土曜日) https://drive.google.com/file/d/1fKf6k6U1okRXvLC7xZmfwDC0rKNXccKY/view?usp=sharing 日本緩和ケア学会のプログラムを眺めていたら https://plaza.umin.ac.jp/jspm2023/doc/programlist_0619.pdf https://plaza.umin.ac.jp/jspm2023/program/index.html 悪性腹水にたいするテンコフカテーテルの活用が、欧米では主流になっていることが紹介されており、我が国でももっと取り組んでも良いと思いました 第28回 日本緩和ケア学会 神戸 2023年6月30日(金)~7月1日(土) パネルディスカッション16:悪性腹水、抜いちゃダメなの? 座長:横道 直佑(聖隷三方原病院 緩和支持治療科) 演者: 悪性腹水に対する腹腔穿刺の安全な実施に向けて 伊藤 哲也(東京大学医科学研究所附属病院 先端緩和医療科) CART 横道 直佑(聖隷三方原病院 緩和支持治療科) 悪性腹水のガラパゴス医療 石木 寛人(国立がん研究センター中央病院) 悪性腹水、現場ではどうする? 坂本 雅樹(名古屋徳洲会総合病院 緩和ケア外科)  

悪性腹水に対する標準治療は確立していません。国際的に腹腔穿刺ドレナージが最も広く行われていますが、国内では「抜くと弱る」懸念から医療者や患者がドレナージを躊躇することがあります。その中でCART(腹水濾過濃縮再静注法:ドレナージした腹水を濾過濃縮したのちに静注して身体に戻す治療)が一定の支持を得ています。しかしCARTの有効性安全性は検証されておらず、「抜くと弱る」問題を解決できるのか未だ分かっていません。同じく腹水を体循環に戻す治療である腹腔静脈シャントは、侵襲やDICなどの有害事象があることから国際的にはほとんど行われなくなりました。また欧米では腹水ドレナージの際、毎回穿刺するのではなく、腹腔内にカテーテルを埋め込んで在宅で管理する方法が主流になってきています。このセッションでは最新のエビデンスに基づいて各治療法を解説し、現場での臨床判断に役立つ情報を提供します。さらに、今後の研究課題を見出し、さらなるエビデンスの蓄積に繋げたいと思います。 

臨床では下記のようなケースをしばしば経験します ①維持血液透析患者の癌性腹膜炎や肝硬変難治性腹水にたいしテンコフカテーテルを留置し緩和的腹膜透析を導入するケース ②癌性腹膜炎や肝硬変難治性大量腹水によるACS(Abdominal compartment synd.)利尿剤抵抗性腎機能低下にたいしテンコフカテーテルを留置し緩和的腹膜透析を導入するケース 癌性腹水にたいするテンコフカテーテルも欧米の緩和ケア領域で活用されています 入院回避や複数回穿刺のストレスから開放されるメリットがあります 以下にまとめておきます 癌性腹水にたいするテンコフカテーテルの有用性は、1989年イングランドBirmingham総合病院のLomasらによって初めて報告され Palliation of malignant ascites with a Tenckhoff catheter. Lomas DA, Wallis PJ, Stockley RA. Thorax (IF: 9.14; Q1). 1989 Oct;44(10):828. 2000年ころより緩和ケア目的のテンコフカテーテル使用の報告が増加しています 2000年、シンガポールTan Tock Seng HospitalのA. Leeらは45例の癌性腹水にたいするテンコフカテーテル挿入についてレトロスペクティブに検討 Indwelling catheters for the management of malignant ascites. Lee A, Lau TN, Yeong KY. Support Care Cancer (IF: 3.6; Q3). 2000 Nov;8(6):493-9. 全例45例で挿入可能で速やかに症状緩和が可能、ただし合併症は多い印象、13例でカテーテル抜去(敗血症6例 閉塞5例 被包化腹水2例) 国内では 2005年 取手協同病院前田益孝先生らが難治療性腹水、腎不全を合併した末期癌患者への治療としてテンコフカテーテルを留置した2例を農村医学会で報告 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nnigss/54/0/54_0_116/_article/-char/ja/ エコーガイド透視下留置については 2001年、MGHのO'Neill MJらが24例のエコーガイド透視下カテーテル留置の有用性を報告 16Frピールアウェイシースを使用し120cm,5-French catheter (Davis; Cook)を留置 Tunneled peritoneal catheter placement under sonographic and fluoroscopic guidance in the palliative treatment of malignant ascites. O'Neill MJ, Weissleder R, Gervais DA, Hahn PF, Mueller PR. AJR Am J Roentgenol (IF: 3.96; Q2). 2001 Sep;177(3):615-8. 多症例での検討として 2018年、メイヨークリニックのJennifer A Knightらが137例(119例悪性腹水・18例非悪性難治性腹水)にたいするテンコフカテーテルの有用性を報告 Safety and Effectiveness of Palliative Tunneled Peritoneal Drainage Catheters in the Management of Refractory Malignant and Non-malignant Ascites. Knight JA, Woodrum DA. Cardiovasc Intervent Radiol (IF: 2.74; Q3). 2018 May;41(5):753-761. 全例直後より症状緩和可能で術直後の合併症はなし、さすがメイヨークオリティです 合併症は、カテーテル関連感染症9例、リーク8例、カテ先異常2例、閉塞2例 90%で死亡時もカテーテル使用継続

以上のように欧米では難治性腹水・悪性腹水ともに症状緩和目的にテンコフカテーテルを使用しており頻回穿刺が回避できるよい効果的な緩和ケアとして普及しています

1: Macken L, Hashim A, Mason L, Verma S. Permanent indwelling peritoneal catheters for palliation of refractory ascites in end-stage liver disease: A systematic review. Liver Int. 2019 Sep;39(9):1594-1607. doi: 10.1111/liv.14162. Epub 2019 Jul 17. PMID: 31152623. 2: Caldwell J, Edriss H, Nugent K. Chronic peritoneal indwelling catheters for the management of malignant and nonmalignant ascites. Proc (Bayl Univ Med Cent). 2018 Jun 1;31(3):297-302. doi: 10.1080/08998280.2018.1461525. PMID: 29904292; PMCID: PMC5997061. 3: Knight JA, Thompson SM, Fleming CJ, Bendel EC, Neisen MJ, Neidert NB, Stockland AH, Bjarnason H, Woodrum DA. Safety and Effectiveness of Palliative Tunneled Peritoneal Drainage Catheters in the Management of Refractory Malignant and Non-malignant Ascites. Cardiovasc Intervent Radiol. 2018 May;41(5):753-761. doi: 10.1007/s00270-017-1872-1. Epub 2018 Jan 17. PMID: 29344716. 4: Solbach P, Höner Zu Siederdissen C, Taubert R, Ziegert S, Port K, Schneider A, Hueper K, Manns MP, Wedemeyer H, Jaeckel E. Home-based drainage of refractory ascites by a permanent-tunneled peritoneal catheter can safely replace large- volume paracentesis. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2017 May;29(5):539-546. doi: 10.1097/MEG.0000000000000837. PMID: 28350743. 5: Bohn KA, Ray CE Jr. Repeat Large-Volume Paracentesis Versus Tunneled Peritoneal Catheter Placement for Malignant Ascites: A Cost-Minimization Study. AJR Am J Roentgenol. 2015 Nov;205(5):1126-34. doi: 10.2214/AJR.15.14484. PMID: 26496562. 6: Lungren MP, Kim CY, Stewart JK, Smith TP, Miller MJ. Tunneled peritoneal drainage catheter placement for refractory ascites: single-center experience in 188 patients. J Vasc Interv Radiol. 2013 Sep;24(9):1303-8. doi: 10.1016/j.jvir.2013.05.042. Epub 2013 Jul 19. PMID: 23876552.

腹水ドレナージについて追記 20年以上前ですが、ピッツバーグから藤堂省・古川博之先生が北大に赴任してきて、それまで北大第一外科肝臓グループでは肝硬変腹水を1日2Lずつ抜いていたのですが、アメリカではそんなことしておらず、一気に抜くように指導されたのです 理論的背景は上記の通りでしたが、欧米ではアルコール性肝硬変、本邦ではウィルス性肝硬変が多いという背景疾患の違いを指摘した先生もいました いずれにしても、血管内虚脱・うっ血性心不全に注意して腹水穿刺ドレナージを短期間に行うようになりました 北大1外科のアルゴリズムではアルブミン補充量は腹水1Lにたいしアルブミン6-8gとなっていました

0 件のコメント:

コメントを投稿

シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用 しております 低栄養・ 緊急導入・ 高度尿毒症・ 糖尿病・ ステロイド・ 超高齢など しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よ...