2025年4月21日月曜日

腹膜透析普及の障害と政策提言 Barriers to the prevalent of peritoneal dialysis and policy recommendations

  腹膜透析と血液透析の治療成績はほぼ同等であると言われているにもかかわらず、腹膜透析が普及していない原因についてはさまざま指摘されていますが、テクニカルにはいずれも克服できるものであると考えられています。
Epidemiology of peritoneal dialysis outcomes
Nature Reviews Nephrology volume 18, pages779–793 (2022)

 高齢者で手技が自立できないケースであっても、我が国の医療介護保険制度は世界的にみても優れているおかげで、訪問看護を活用したアシステッドPDでまったく問題なく行えます。
 腹膜透析を患者に適切に届けられていない最大の原因は、医療者側の怠惰であると指摘する声もあります(個人的にはそう考えています)。

 地域の大学医局や基幹病院を頂点とする医療教育ギルドにおいて、不幸にも低レベルな教育しか受けられなかった医療者が、第3者による監視もされないままに低レベル低価値医療を提供し続けていることに問題の本質があります。
 脳外科竹田くんの問題は、ことの大小はあれども、じつは日本の医療界、とくに選択肢が限られている地方では普遍的な側面でもあるのです。https://dr-takeda.hatenablog.com/

 
 公的医療である透析医療の方向性に大きな影響を与えるのは、政策・行政と診療報酬制度です。
 我が国では公的医療である透析医療が民間資本主導によって普及してきました。患者数が増加してゆく過程では良かったのでしょうが、患者数が減少しはじめ、需要に合わせたスケールダウンが必要になったいま、どこもうまく対応できていないようです。
 CHCP(https://www.chcp.jp/)やCUC(https://www.cuc-jpn.com/)といったヘルスケア領域に特化したM&A企業も血液透析領域の採算性の悪さに手を焼いているようです。裏を返すと、(私達の間では分かっていたことではありますが)透析業界は、透析管理医師の盆暮れ正月もない、一般人の想像を超えた個人的献身・犠牲のうえに成り立っていた、ということなのです(そしてこのようなことは継続不能なのです)。

 また、地域の血液透析ベッド数は入院ベッド数と同様、地域医療計画に組み込まれるべきです。現在のような血液透析開業のハードルが低い状況は、楽観的な見通しで透析クリニック開業ができてしまう結果、透析ベッドの過剰提供となりがちで、さらには血液透析への患者誘導につながっていると感じています。

地域の過剰病床にたいし減床補償がなされているように、血液透析ベッドの減床にたいしても、減床補償を検討してもらえるとスムーズなサイズダウンが進むのではないでしょうか。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05CT50V00C25A3000000/
 
 このようななか、血液透析に比べ腹膜透析は、少ない人員、土地建物・設備投資も不要であり、結果的に商業主義透析になりにくく、温和な在宅終末期も可能です。人口減少高齢化社会に最適な透析療法と言えるでしょう。

 腹膜透析普及という観点から、透析医療の抱えている課題と解決アイデア、それらを実行するためにどのような政策提言が可能なのか考えてみました。



 医療保険と介護保険の併用ができないため介護度が高くなると施設入所を選択せざるを得ない、PD患者でなくても要介護3くらいになると、自宅での生活が難しくなるので、同居家族がいなければ施設を検討することになります。

 昭和50年代後半(1980年代)から、核家族化と少子高齢化が進む中で、体力の低下や認知症が現れた高齢者の介護の問題が深刻になり、家族だけでなく、地域や社会全体で支え合う制度として、平成12年4月1日から「介護保険制度」が始まりました。
 地域包括ケアシステムとして、【病院から地域へ】の掛け声の下、地域の受け皿整備が行われてきました。



 しかしながら、介護保険制度自体は、そもそも家族の介護負担を軽減するために制度設計がなされた経緯があるため、独居や医療依存度の高い高齢者の増えている現状には適応しにくくなってきています。








 医療依存度の高い透析患者では、マル長を利用して入院するのが一番経済的負担が少ないので社会的透析入院となるわけです(ただし社会コストは最大)。
 特に、血液透析患者では、週3回の通院送迎問題があり、送迎車に自力で乗れない患者さんは送迎対象外となることもあって、社会的入院になり終末期まで病院生活を余儀なくされている現状があります。

 いっぽう、入院コストを在宅・施設入所コストに振り分けたほうが社会コストは安くなるのは自明です。
 たとえば、センター透析を在宅(腹膜)透析へ誘導することの経済効果を検証した、2012年 Ontario Renal Network Home Dialysis Initiativeにおいて、センター透析から在宅透析への誘導政策によって、在宅透析普及率は2012年21.9%から2019年26.2%に増加し、そのほとんどはPD、推定8000万カナダドル=82億4000万円(1カナダドル=103円)のコスト削減に成功しています。
 日本の場合、社会的入院コストが在宅に移行することで解消されることを考えると、さらに大きな社会コスト削減が患者さんのQOL改善とともにもたらせることになります。
 


 在宅・施設入所腹膜透析患者にたいし、医療保険と介護保険の併用(訪問看護を医療)を認めてもらえると、在宅生活継続や施設入所のハードルは下がります。(別表7の疾患)
 じっさい、筋ジストロフィーや頚髄損傷の患者さんがこの制度のおかげで、質の高い在宅生活を送ることができています。

 京都市や函館市のように自治体限定で認められている地域もあります。生活支援分は介護保険をベースにしたほうが地方財政負担が少なくなる、ということなのでしょう。

 ちなみに、後期高齢者医療制度における医療給付の財源は、公費が5割、現役世代からの支援金(国民健康保険や被用者保険等からの負担)が4割で、残りの約1割を被保険者の保険料。公費負担分は国:県:市町村が、それぞれ4:1:1の割合になります。




 しかし、いっぽうで、患者負担という意味では、入院のほうが安いことに変わりはないので、社会的入院よりも在宅・施設を選びやすくなるように、在宅や施設入所した場合の患者負担が入院よりも安くなるようにするか、もしくは社会的入院と認められるものは施設と同額の負担にまで引き上げるか、いずれか(もしくは両方)の対応が必要でしょう。
 透析病院が患者を囲い込まないようにするために、社会的入院透析をターゲットにさらに厳しい包括制度を導入することも必要かもしれません。

 医療依存度の高い患者の社会的入院を回避し、地域での支援制度として、フランスのHAD(在宅入院制度)は参考になります。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CD.0000003118


  この制度を活用することで、フランスでの腹膜透析は56%がアシステッドPDを利用しています。また、血液透析から腹膜透析への移行(いわゆるラストPD)が新規PD患者の8.6%を占めているそうです。


 日本では、軽症・老衰患者への訪問診療や訪問看護が過剰に行われていることが問題になっています。
ホスピス住宅「儲け至上主義」で不正行為が蔓延。最大手にも疑惑、手厚い看取りの制度が収益化手段に 印南 志帆 : 東洋経済 記者 2025/04/16 5:00

 人口減少高齢化によって、供給低下が著しい医療介護資源を有効活用するため、フランスを見習って、在宅支援診療所・訪問看護・施設はもっと医療依存度の高い患者のために働くべきなのです。

 在宅療養支援診療所は、軽症患者に頻回訪問を行う低密度診療によって、在宅バブルと言われるほどの利益をあげています。腹膜透析のようなきめ細かな(手のかかる)管理の必要な患者は敬遠されてしまう傾向にあります(タイパが悪い)。最近も、もともと在宅療養支援診療所が関わっていた高齢患者さんに腹膜透析を導入したのですが、退院後の介入継続を断られました。その理由は、在宅透析患者の経験がない、ということでした。なんのための訪問診療なのかと思いますが、そのような在支診にはもともと診る能力が疑わしいので、断ってもらってかえって良かったとも思います。

 在宅医療・訪問看護を真に必要な患者に提供するためには、下記がポイントになるでしょう。限られた医療資源・財源を有効に利用するために、早急な診療報酬の改善が必要だと考えています。
①慢性期・老衰を対象にしない
②管理できる患者数を制限する(総数規制)
③対象疾患を限定する

 


2025年4月3日木曜日

ミニマム創テンコフカテーテル留置術 Minimal Wound Tenchoff Catheter Placement

 当院では、局所麻酔&腹壁ブロック+プレセデックス鎮静による、小開創テンコフカテーテル留置術を採用してきました。手術時間は20-30分程度、特別な機器も必要とせずカテーテルトラブルも少ない安定した術式です。

 さらなる術式改良を目指し、低侵襲な術式の改善を模索してきました。
 最近、腹直筋前鞘切開延長を行わない、ミニマム創テンコフカテーテル留置術を開発しました。優れた術式と思われますので簡単に紹介したいと思います。(近日中に動画もアップします)
 手術時間は15-25分、術創は2-3cmとラパロポートひとつ分です。小さな創で腹直筋をスプリットしないため術後疼痛もかなり軽減されます。

 セルジンガー法と比較しても、安全で早く低コストと三拍子そろった優れた術式と考えています。
 オペ室スタッフからも、エコーとCアーム準備する手間もなく、というより準備する間もないくらい短時間で終わってしまうので、セルジンガー法よりもミニマム創のほうが圧倒的に支持されています。

 安全性の面から、気管切開がセルジンガー法からハイブリッド法(気管前面露出)、ラパロのファーストポートが穿刺法から直視法が主流となったように、テンコフカテーテルも開腹操作までは直視下が推奨されると考えています。

 視野を確保するために腹直筋後鞘に支持糸をかけ、それをカフ下縁の固定および切開孔縫縮に使用することが要点です。カテーテルをしっかり寝かせることもできます。
術中にリークテストを行い、術当日から貯留開始し(Urgent start)、術翌日からは1.5Lのフル貯留を行うことができます。

 ポイントは下記になります、従来の手技の延長で簡単にできます。

  1. 腹直筋前鞘切開の延長は行わない
  2. 深部カフ上のみのミニマム切開
  3. 腹直筋後鞘に支持糸3-4針かけ吊り上げ
  4. 腹膜切開は最小
  5. タバコ縫合は行わない
  6. カフ下縁のZ縫合を支持糸を用いて行う
  7. カテーテル腹直筋後鞘固定は行う
  8. トンネラーにて腹直筋背側を通し前鞘を貫通
  9. トップカフ切開部へトンネラーで誘導
腹直筋前鞘切開を延長しないため
その分手術操作が短縮
皮膚切開・腹直筋スプリットは最小限
術後痛も少なくなります
カテ先端を恥骨上縁より2-4cm下におき
深部カフポジションを決定
コツ:皮下脂肪厚いときはやや頭側にする
支持糸は結紮したときに縫縮されるよう
切開予定部を中心に円を描くよう3-4針かけ
結紮せずモスキートで把持しておく
コツ:1針で腹直筋後鞘に3バイトずつ運針
創が小さいため腹壁に沿わせやすいように
足側腹壁を筋鈎でしっかり引き上げ挿入する
ポイント:カフが皮膚に接触しないよう注意
針を残しておいた支持糸を使用しカフ下縁にZ縫合
結紮することで切開孔が縫縮される
リークテスト200mlおこない
必要に応じ追加縫合
カテを寝かせるため後鞘前面に縫合固定
先端鈍弱弯トンネラーを腹直筋背側に沿わせ
ブラインド操作で前鞘を適切な位置で貫通
トップカフ固定予定切開部まで皮下を誘導
コツ:トップカフ位置が創直下にならぬよう
カフは皮膚接触避け消毒しておく(感染予防)

続いて出口部まで皮下を誘導
当院では上腹部肋骨弓上出口で行っている
術当日0.5Lで洗浄し問題なければ1.0L貯留
翌日からは1.5Lフル貯留開始
コツ:少しくらいの出口部出血は焼かずに圧迫で止血

2025年3月15日土曜日

遺伝子改変ブタ腎移植アップデート 中国でも始まった Gene-Modified Pig Kidney Transplantation Update, Also started in China.

2024年3月16日 MGH & eGENESISは遺伝子改変ブタ腎臓のヒトへの移植に世界で初めて成功したと発表
https://wired.jp/article/genetically-edited-pig-kidney-human-transplant-xenotransplantation-massachusetts-general-hospital/
日本人が執刀しています(河合達郎先生)
Xenotransplantation of a Porcine Kidney for End-Stage Kidney Disease.
The New England journal of medicine. 2025 Feb 07; doi: 10.1056/NEJMoa2412747.
https://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa2412747
日本語解説
河合達郎先生についてはこちらhttps://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/blog/kurofunet/tkawai 

2024年4月12日 異種腎移植レシピエントが残念ながら、拒絶反応や異種感染症以外の原因で患者死亡と発表
移植とは無関係とのことですが詳細は未発表です 
Recipient of first pig kidney transplant dies nearly 2 months later The hospital said there was no indication the passing was due to the transplant. ByRiley Hoffman May 12, 2024, 10:46 AM

その後、遺伝子改変ブタの開発は世界的な開発競争が行われています
eGENESISのほかにはユナイテッド・セラピューティクス社が同様の研究開発をおこなっています

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™は10個の遺伝子を改変した遺伝子改変ブタを作成。
ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™の前臨床試験はジョンズ ホプキンス大学の山田和彦とアンドリュー M. キャメロンによって行われました。
バージニアにある臨床グレードSPF環境の遺伝子改変ブタ飼育場では年間125臓器の出荷が可能で、現在、ミネソタ州にさらに建設中だそうです。
2024年11月25日 ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を移植する初の異種腎移植に成功しました。

レシピエントはアラバマ州に住む53歳女性 Towana Looney
母親に生体腎移植ドナーとして腎提供後、妊娠高血圧を契機として腎不全となり透析導入されていたが、クロスマッチ陽性のために腎移植が受けれない状況であったそうです
UKidney™異種腎移植はNYU Langone HealthのRobert Montgomeryにより執刀されました
術後2ヶ月、腎機能は問題なく、異種感染の兆候もないということでした


2025年2月3日 United Therapeutics Corporation (Nasdaq: UTHR)からUKidney™ 異種腎移植の臨床試験計画がFDAの承認を得たとHP上で発表されました
2025年半ばに開始され、当初は6例、その後は60例まで、第 1 相/第 2 相/第 3 相複合試験 (フェーズレススタディ)を行う予定のようです

2 つのグループにおける UKidney の安全性と有効性を評価することを目的としています
対象患者は年齢 55-70 歳、ESRD の診断、少なくとも 6 か月間の血液透析であることと下記のいずれかの要件を満たしていることです
①医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと評価され、判断されたESRD患者
②腎移植の待機リストに載っているが、5年以内に脳死腎移植を受けるよりも死亡するか、移植を受けられない可能性が高いESRD患者

有効性エンドポイントには、参加者の生存率、UKidney のグラフト生存率、糸球体濾過率、および移植後 24 週間の参加者の生活の質の変化が含まれます。UKidney を受け取った参加者の全生存期間と UKidney 自体の全生存期間も有効性エンドポイントです
安全性エンドポイントには、有害事象および重篤な有害事象の発生率、全死亡率、タンパク尿、人獣共通感染症、日和見感染症の発生率が含まれます

当然ながら中国でも実施されると思っていましたが
2025年3月6日 中国陝西省西安の空軍軍医科大学付属西京医院にてアジア初、世界5例目の遺伝子改変ブタ腎移植に成功と報道

中国で人体へのブタの腎臓移植手術に成功…「アジア初」
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e00db6a56ed302972ab9674e8978dd4864b37cc
Gene-edited pig kidney transplanted successfully in Xi'an CHINADILY.com 2025/3/13
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/13/WS67d28380a310c240449daa0e.html
Pig kidney transplanted into renal disease patient CHINADAILY.com 2025/3/14
https://www.chinadaily.com.cn/a/202503/14/WS67d380b4a310c240449dab8e.html

2025年3月15日時点、世界では5例の遺伝子改変ブタ腎移植がヒトにたいして行われ、そのうち、2例が早期死亡、3例がグラフト生着生存中ということになります

腎不全医療のみならず、臓器不全医療に革命的な変化を起こす可能性のある異種腎移植が現実化してきました。

2007年頃、私自身はミネソタ大学移植外科にて異種移植研究に従事しておりましたが、非科学的商業主義に嫌気がさしたことと、異種感染症によって人類は滅亡する可能性があると感じ、研究から離脱しました。

ブタから人への人畜共通感染用として、古くは、日本脳炎、 豚丹毒、サルモネラ、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、最近で言えば鳥インフルエンザ、E型肝炎ウイルス、 中国で豚から人に移って亡くなった劇症型連鎖球菌症などが有名です。

厚生労働省指針の「移植に際して危険性が排除されるべきとされる病原体」のリストにはウイルス44種,細菌 25種,真菌 2種,原虫 18種など,合計で89種の病原体が示されています。

異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
平成27年度厚生労働科学研究費補助㔠厚生労働科学特別研究事業
研究代表者 俣野哲朗(国立感染症研究所エイズ研究センター長)

ブタ感染症についてはこちらの文献がわかりやすく書かれています
これを読むと、もっともよく研究されている分野とはいえ、臨床医が楽天的に考えているよりもブタ感染症はなかなか手強いことがわかります。
異種移植における感染症リスクの検査―日本における現状と課題 
摂南大学農学部応用生物科学科動物機能科学研究室 井上 亮 三浦 広卓
人工臓器52巻3号 2023年 p245-249

異種感染症や慢性拒絶がクリアできるのか。
人類生命に脅威を与える可能性はコントロールできるのか。
医学的先進性への過剰な期待や商業主義による暴走が起きないことを祈りつつ、前向きに経緯を見守ってゆきたいと思います。


2025年3月13日木曜日

我が国の高齢腎不全患者に対するPDの歴史 History of PD for elderly renal failure patients in Japan

1956年、腹膜灌流による国内初の救命報告は、貝毒急性腎不全による56歳男性患者であった。

單腎部分切除と腹膜灌流

長崎大学泌尿器科 城代浹一郎 日泌尿会誌 48 10 1957 p807-819

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/48/10/48_10_807/_pdf/-char/ja

 

1946年に人工腎臓による世界初の救命に成功したKolffSLE腎症の77歳女性にたいする高齢者透析の初報告を行ったのは1957年であった。

Use of artificial kidney in the very young, the very old, and the very sick

W A KELEMEN, W J KOLFF J Am Med Assoc. 1959 Oct 3:171:530-4.

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/326812

 

我が国の腹膜透析の歴史は高齢者から始まったとも言える。

 

1961年、人工腎臓の実用化に成功したスクリブナーの所属する米国シアトル市スウェーディッシュ・ホスピタルにて「人工腎臓センター管理政策委員会」 が招集された。限られた透析医療資源において「全員が生きられないときに誰が生きるべきか」を選別するためである。196211月のライフ誌の特集記事において、本来、生命の選別は神のみに許されると思われることから【神の委員会】と呼ばれた。透析黎明期にあっては、45歳以下で社会復帰が望める患者のみが審査対象であり、高齢者は透析治療の対象外であった。

Alexander S. They decide who lives, who dies: medical miracle puts a moral burden on a small committee. Life. November 9, 1962;53(19):102-4, 106, 108, 110, 115, 117-8, 123-24. 

https://books.google.co.jp/books?id=qUoEAAAAMBAJ&printsec=frontcover&lr=&rview=1&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=true

 

 1975年に開催された第9回人工透析研究会の主題は、普及からわずか10年足らずであったが、驚くことに、すでに【高令者の透析】であった。透析医療の進歩普及によって高齢者への適応拡大が試みられるなか、社会復帰や生きがい、透析医療費など、現代も続いている課題について議論されている。

 国立王子病院小出桂三らは「高令者の人工透析」の演題で透析方法について述べているが、50歳以上では腹膜透析および腹膜透析と血液透析の併用療法が多数を占めていると発表している。当時は血液透析機器が不足しており、高齢者に関わらず、腹膜透析との併用が一般的だったようである。また、50歳以上が高齢者と分類されており、時代の変化を痛感させられる。



高令者の透析現況 人工透析研究会会誌9 (1976) 1 P12

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsdt1968/9/1/_contents/-char/ja

 

 1992年ころになると、透析人口高齢化に伴う社会的入院と病床不足が問題化した。徳島県川島病院では、その対策として在宅や施設で施行可能な腹膜透析も取り組まれたが、結果的に入院率が高く(平均15-20%)有効な手段ではなかったという。現代のような、地域の医療介護資源が整備されていなかった当時としては立派な数字だったと思う。

透析患者の入院を考える 日本透析医会雑誌 平成41130 Vol.8 No.2(17)p185

https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/8-2.pdf

 

いま振り返ると、腹膜透析が、社会的入院解決の受け皿になるためには、2000年代の地域包括ケアシステムの整備や訪問看護の普及、医療依存度の高い患者や看取りまで対応する老人施設の登場、さらにIoT技術の進歩普及を待つ必要があったのである。

 

 かしま病院中野広文らは、終末期透析患者では、治療によるADLや病態の改善を積極的に期待することができないため、これらの患者のQOLを向上させるためには、尿毒症治療そのものよりも看護・介護の比重が大きくなると指摘。終末期患者には質の高い看護・介護を導入しやすい治療法である腹膜透析の有用性を提案し、これをPDラストと呼んだ。

在宅医療におけるPDラストの有用性と課題 中野広文 透析会誌35(8):1205-1210,2002

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt1994/35/8/35_8_1205/_pdf/-char/ja

 

 2002年には高齢者腹膜透析研究会(ゼニーレPD研究会)が発足し、様々な先駆的な取り組みが行われた。済生会八幡病院中本雅彦らはPDラスト北九州方式として通院困難となった血液透析患者を腹膜透析に療法変更し在宅療養とし、透析クリニックからの訪問診療を行った。埼玉医大中元秀友らは、クラウドに腹膜透析患者管理システムを構築し、インターネットを介して患者情報を共有化する連携モデルを提案、現代の遠隔患者管理(Remote Patient Monitoring)の先駆けになる構想であった。

テキストブック高齢者の腹膜透析 東京医学社 2008年 (絶版)

https://www.tokyo-igakusha.co.jp/b/show/b/118.html

 

 2003年、岡山済生会総合病院平松信らは、高齢者において、腹膜透析は、合併症率を増やさず安定して維持可能であり、血液透析に比べ、残存腎機能保持に優れ、認知症スケール、身体的自己維持スケール、および日常生活の手段的活動スケールいずれにおいても高いスコアであることを示した。このことは、免疫力の低下している高齢者は感染リスクが高く、腹膜透析は不向きである、という従来の考え方を覆すものであった。

Improving outcome in geriatric peritoneal dialysis patients

M. Hiramatsu Perit Dial Int. 2003 Dec:23 Suppl 2:S84-9.

https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/089686080302302s18

 

このようななか、高齢化社会におけるニーズの変化にたいし、自由度とQOLに優れ、循環動態に与える影響も少なく、穏やかな在宅療養生活を可能にする腹膜透析への取り組みが広がっており、海外でも同様の試みがなされてきている。

2015年、スペインより、手技自立困難となった終末期腹膜透析患者を血液透析に変更することはやめ、腹膜透析を、Palliative peritoneal dialysis(緩和的腹膜透析)というコンセプトで【呼吸困難や尿毒症などの症状緩和を可能とし最期までケアされていることが実感できる治療法】として継続することを提唱している。

Palliative peritoneal dialysis: Implementation of a home care programme for terminal patients treated with peritoneal dialysis (PD)

Maite Rivera Gorrin Nefrologia. 2015;35(2):146-9.

https://www.revistanefrologia.com/en-pdf-S2013251415000061

 フランスは日本と似た医療介護の2本柱の制度を有しているが、その実態は大きく異なる。主に慢性期・終末期ケアを提供する日本の在宅医療に対し、フランスの在宅入院制度Hospitalisation à domicile (HAD)は急性期在宅医療であり、そのコンセプトは入院回避と早期退院であり在宅透析もその対象である。訪問看護を主体とする多職種協働の集中的ケアマネジメントにより入院医療に近いサポートを提供し医療依存度の高い患者を在宅で支えている。これらのシステムを活用することで、フランスでは56%がアシステッドPDであり、血液透析からの腹膜透析への移行も8.6%であるという。

Impact of Assisted Peritoneal Dialysis Modality on Outcomes: A Cohort Study of the French Language Peritoneal Dialysis Registry

Solène Guilloteau Am J Nephrol. 2018;48(6):425-433.

https://karger.com/ajn/article-abstract/48/6/425/33086/Impact-of-Assisted-Peritoneal-Dialysis-Modality-on?redirectedFrom=fulltext

 

 高齢者腹膜透析普及のボトルネックとして,腹膜透析医療についての情報不足や提供施設が少ないことが挙げられる。腹膜透析プログラムの開始に必要な医療リソースは血液透析にくらべ圧倒的に少なく、維持管理もIoTを駆使した在宅支援診療所や訪問看護との連携によって以前に比べ容易になった。

 

 2018年、遠隔治療モニタリングが利用可能となり、多患者一括管理や治療密度改善が可能となった。クラウド型電子カルテやSNS連携ツールとの相乗効果によって、在宅や施設であってもあたかも病院と同様なバーチャルホスピタル環境の提供が可能となった。IoT技術と先進テクノロジーの相乗効果によるイノベーションが急速に進行し、患者を中心とした異なるケアシーンや医療従事者をIoTによってつなぐ、コネクテッドケアの概念は腹膜透析医療との親和性が高く、腹膜透析地域連携ネットワーク構築によってより精度の高い管理を可能にした。

 

地域医療介護リソースの充実は、近年の極めて大きな社会環境変化であった。2000年より始まった介護医療保険制度と在宅支援診療所や訪問看護ステーションなどとの地域包括ケアシステムの拡充によって、地域の受け皿はソフト・ハードともに十分に整備され、腹膜透析医療が病院単独の医療であった過去から脱却し,地域医療への広がりを可能にした。

 

高齢腎不全患者に対する我が国の腹膜透析の歴史・経験についてまとめた。高齢化社会のなか私達の進む方向性を示唆してくれているといえよう。


2025年2月24日月曜日

毎年74%の透析患者がシャントトラブル発症し治療に400億円以上 ★シャントPTAたった1回分の手術コストで腹膜透析に切り替え可能 Vascular access dysfunction incidence and cost among Japanese dialysis patients

 Vascular access dysfunction incidence among Japanese dialysis patients from NDB Open Data Japan

Kenta T. Suzuki, Kiyoshi Naemura & Yuichi Sakumura

Scientific Reports volume 15, Article number: 6523 (2025) 

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8

奈良先端科学技術大学院大学データ駆動型生物学教室から内シャント治療に関する興味深い論文が出ました

https://www.sakulab.org/home


2020-2022年度のNDB Openを使用し請求コードに基づいて、年間VA機能障害率と3か月再発率を計算。平均年間VA機能障害率は74.0%で、3か月再発率は16.9%であった。女性と高齢患者では、その割合が高く年齢は 正の相関関係にあった (ρ = 0.827–0.941)。

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/tables/1

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/figures/1

VA 機能障害率は都道府県によって異なっており、治療介入にかなりの地域差があるようですね。愛知県や中部地方と宮城県が多いようです。

https://www.nature.com/articles/s41598-025-91034-8/figures/2


Kコードの分析なので重複カウントによって内シャント機能障害率がオーバーカウントされていると感じましたが治療数の把握にはなり、改めて内シャント機能障害によるPTA医療費が莫大な額になっていることがわかります。


手技料だけで

(184,008+37,590)件*120,000円=265億9176万円

いちばん安いデバイスで医療材料を計算

(184,008+37,590)件*(バルーン37,800円+ガイドワイヤー13,700円)=114億1229万円

足すと、手技料と医療材料の最低値概算で380億405万円という莫大な額になり、実際は400-500億円以上になることが推測されます。

PTA以外にも下記にて請求するケースもあり、これらを追加するとさらに増えるでしょう。

内シャント血栓除去術 3590点

四肢の血管拡張術・血栓除去術 22,590点

内シャント造設術 12080点

人工血管内シャント造設術 30290点

上腕動脈表在化法 5000点


シャントPTAたった1回分の手術コストで腹膜透析に切り替え可能です、追加治療も不要です。

血管に乏しい高齢者にはますます腹膜透析を勧めるべきです。

K653-3 テンコフ留置術 12000点


透析医学会でも内シャント治療のセッションは立ち見が出るほど大盛況です。それだけ、トラブルが多いということなのです。

シャントPTAは病院のドル箱になっており、病院経営が厳しい昨今、手放したくないのもわかりますが、患者中心医療の時代ですので、患者に苦痛を与え社会コストを押し上げる治療は一刻も早くやめるべきです。

2025年2月17日月曜日

非がん患者への緩和ケア提供は大切だが死への誘導にならぬようきわめて慎重に行うべき Liverpool Care Pathway から学ぶこと Providing palliative care to non-cancer patients is important, but should be done very carefully so as not to lead to death. Lessons Learned from the Liverpool Care Pathway.

1990年代後半、病院や施設での終末期対応があまりにもお粗末ということで、ホスピス緩和ケアの手法を一般病院や施設でパスとして使用できるように、イギリスの国立リバプール大学病院マリーキュリーホスピスで開発されたのがリバプールケアパスウェイ(LCP)です
2003年にイギリスNHSで制度化されました

ところが、実際に運用してみると、下記のような問題が明らかになりました
  • 高齢患者に機械的に適用され、鎮静と脱水によって手間をかけずに死なせるための手順書と化してしまっているとの告発
  • まだかなり生きられる高齢患者がLCPによって殺されている可能性が高いこと
  • エビデンスもなしに始められるLCPは、もはやケア・パスというよりも幇助死パスウェイと化してしまっていること

2009年 死への誘導を医療減らしのために政府が支援しているとタブロイド紙やBBCがアンチLCPキャンペーンをはり

2013年 第3者評価機構によるLCP運用不適切との評価勧告を受けイギリスでは使用中止勧告となった

実は日本でも、2010年 LCP日本語版のリリースがありましたが、上記のような経緯で普及していないようです

緩和ケアの手法が不適切に提供されると、死への誘導が行われる可能性が高いという事実です

現在の日本における医療界の倫理観は史上最低レベルに堕落しています
緩和ケアという名の薬漬けが常態化していることは周知の事実です

睡眠薬で高齢者を「寝かせきり」病院・施設の闇 2021/1/23 東洋経済オンライン
「父を助けてください」向精神薬で“廃人”にされた親、老人ホーム施設長のあぜんとする本音 2021/01/03 サイゾーウーマン

よっぽどな監視・ブレーキがないと危険だと感じます

医療・介護の性善説に基づく管理は、完全に失敗しており、もっと厳しい外部監視の目が必要なことは自明なのです
医療介護も、世襲ファミリービジネス化しており、独裁王国のような独善体制を築いていることが多いです
良心的な医師や職員が批判すると、様々な理由(パワハラ・職務怠慢など)をつけて退職に追いやられます
令和5年4月より、医療法人の決算書や事業計画書がインターネット上で公表されるようになりました
貸借対照表や損益計算書の詳細をみると、ファミリーが驚くほど利益の多くを取っている事実があります

そもそも、高額な公的治療の提供を、医師個人が判断出来ること自体が間違っているのです
医療や介護は算術では無い、高齢者を食い物にするのはやめるべき
本人の意思、本人の内なる声に耳を傾けるべきなのです

ナチス優生思想に基づいた医師による障害者などの安楽死関与の反省・批判から、ドイツの刑法学者 Karl Engisch (1948)は「生きる価値のない生命の抹殺の刑法的理論」にて安楽死の概念について述べており、我が国における安楽死の議論にも大きな影響を与えました

純粋の安楽死
        死苦緩和の措置が死期を早めるまでには至らない行為
間接的安楽死
        死苦緩和の措置が意図しない副作用として死期の短縮をもたらす行為
不作為による安楽死
医療を引き受けないという不作為によって死期を早める行為
積極的安楽死
患者の生命を断つことにより死苦を免れさせる行為
生きる価値のない生命の抹殺(不任意の安楽死)
障害者などに本人の意思に関係なく憐れみによる死を与える行為

Karl Engischは、医師は患者を保護する者であり、社会的淘汰の手先になってはならない。人間の生命の保護が社会の経済状態との関係で相対化されることはグロテスクであると。
まさにこのことですね

児玉真美さんが2014年にまとめられていますが、いまあらたに共感を持って再読いたしました
「どうせ高齢者」意識が終末期ケアにもたらすもの――英国のLCP調査報告書を読む
2014年1月10日 SYNODOS

今読み返すと彼女の指摘は実臨床の感覚に近く、正鵠を得ているように感じます
(以下抜粋)
過剰医療への批判⇒「いかに終末期医療を受けずに死ぬか・死なせるか」という議論になりがち
「いかにして終末期医療を受けずに死ぬか・死なせるか」ではなく
「いかに終末期医療を改善するか」であり
「いかにすれば個々の患者の個別性に応じて、終末期を苦しくないものにできるか」

公費による高齢者医療介護で「延命」よりも「死生観の見直しによる穏やかな最期」にシフトする時期であることは間違いありませんし、社会的入院血液透析がディストピアの極地であることも間違いないことではあります

私達の提供している緩和的腹膜透析の立ち位置がより明確になったように感じます

2025年2月5日水曜日

2025年2月3日 United Therapeutics Corporation UKidney™の臨床試験をFDAが承認

 2024年3月16日 MGH & eGENESISは遺伝子改変ブタ腎臓のヒトへの移植に成功したと発表しました

2024年4月12日 残念ながら拒絶反応や異種感染症以外の原因で患者死亡と発表されていました

遺伝子改変ブタの開発は世界的な競争が行われています

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™は10個の遺伝子を改変した遺伝子改変ブタを作成

ユナイテッド・セラピューティクス社UKidney™の前臨床試験はジョンズ ホプキンス大学の山田和彦とアンドリュー M. キャメロンによって行われました

バージニアにある臨床グレードSPF環境の遺伝子改変ブタ飼育場では年間125臓器の出荷が可能で、現在、ミネソタ州にさらに建設中だそうです


2024年11月25日 ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を移植する初の異種腎移植に成功しました

https://ir.unither.com/press-releases/2024/12-17-2024-120130031

レシピエントはアラバマ州に住む53歳女性 Towana Looney

母親に生体腎移植ドナーとして腎提供後、妊娠高血圧を契機として腎不全となり透析導入されていたが、クロスマッチ陽性のために腎移植が受けれない状況であったそうです

UKidney™異種腎移植はNYU Langone HealthのRobert Montgomeryにより執刀されました

術後2ヶ月、腎機能は問題なく、異種感染の兆候もないということでした

https://apnews.com/article/pig-kidney-transplant-xenotransplant-nyu-alabama-021afcc9697a0a490c0d0726482515b4


2025年2月3日 United Therapeutics Corporation (Nasdaq: UTHR)からUKidney™ 異種腎移植の臨床試験計画がFDAの承認を得たとHP上で発表されました

2025年半ばに開始され、当初は6例、その後は60例まで、第 1 相/第 2 相/第 3 相複合試験 (フェーズレススタディ)を行う予定のようです

2 つのグループにおける UKidney の安全性と有効性を評価することを目的としています

対象患者は年齢 55-70 歳、ESRD の診断、少なくとも 6 か月間の血液透析であることと下記のいずれかの要件を満たしていることです

①医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと評価され、判断されたESRD患者

②腎移植の待機リストに載っているが、5年以内に脳死腎移植を受けるよりも死亡するか、移植を受けられない可能性が高いESRD患者

有効性エンドポイントには、参加者の生存率、UKidney のグラフト生存率、糸球体濾過率、および移植後 24 週間の参加者の生活の質の変化が含まれます。UKidney を受け取った参加者の全生存期間と UKidney 自体の全生存期間も有効性エンドポイントです

安全性エンドポイントには、有害事象および重篤な有害事象の発生率、全死亡率、タンパク尿、人獣共通感染症、日和見感染症の発生率が含まれます

腎不全医療に革命的な変化を起こす可能性のある異種腎移植が現実化してきました
異種感染症や慢性拒絶がクリアできるのか

経緯を見守ってゆきたいと思います

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2025.04.13 CNN 遺伝子改変ブタの腎移植、130日間の最長記録を樹立 米女性
https://www.cnn.co.jp/usa/35231720.html
CNNは前向きなタイトルをつけているが、遺伝子改変ブタ腎移植、急性拒絶によるグラフトロスのニュース
2024年11月25日 Towana Looney(53) ユナイテッド・セラピューティクス社の異種移植としては4例目になる、UKidney™を用いた遺伝子改変ブタ腎移植
2025年4月4日 感染症治療のため免疫抑制剤を減量したところ、急性拒絶反応を発症しグラフトロスのため移植腎摘出
感染症は異種感染症とは無関係と報道されているが詳細は不明

2025年1月27日月曜日

Urgent Strat PD(カテーテル留置から24時間以内の貯留開始)を標準にしましょう Make Urgent Strat PD (start indwelling within 24 hours of catheter placement) the standard!

 2014年より Urgent Strat PD(カテーテル留置から24時間以内の貯留開始)を行ってきましたが、とくに問題なく、緊急導入や入院期間短縮に役立っています。

こちらの研究でも、24時間以内の貯留開始でリークや感染の増加は見られなかったと結論しています。Feasibility of a break-in period of less than 24 hours for urgent start peritoneal dialysis: a multicenter study Volume 35, pages 1489–1496, (2022) Renal Failure

2019年のISPDガイドライン 腹膜透析アクセス造設と維持に関するガイドラインにおいて、リークリスクを最小化するために、カテーテル留置術2週間後からの貯留を推奨しているため、いまだにUrgent Strat PDを採用していない病院も多いようですが、間違っています。

CREATING AND MAINTAINING OPTIMAL PERITONEAL DIALYSIS ACCESS IN  THE ADULT PATIENT: 2019 UPDATE

PERITONEAL LEAKAGE AND MANAGEMENT

l  We recommend that initiation of dialysis following catheter placement be delayed for 2weeks when possible to minimize the risk of leaks (1B)

l  We recommend that acute and urgent start of PD <2 weeks following catheter placement utilize a recumbent, low-volume, intermittent dialysis regimen, leaving the peritoneal cavity dry during ambulatory periods to minimize the risk of leak (1C)

l  We recommend the use of CT peritoneography or peritoneal scintigraphy to investigate suspected peritoneal boundary dialysate leaks (1A)

最近のUrgent Strat PD(USPD)についての文献をまとめておきましょう

2017年からUrgent Strat PD を取り入れているブラジルからの興味深い報告

Urgent Strat PDによる導入を開始してから、なんと、3年間でPD患者数が256%と驚異的に増加したそうです

Urgent-start dialysis: Comparison of complications and outcomes between peritoneal dialysis and haemodialysis.

Dias DB, Mendes ML, Caramori JT, Falbo Dos Reis P, Ponce D.

Perit Dial Int. 2021 Mar;41(2):244-252. doi: 10.1177/0896860820915021. Epub 2020 Mar 30.

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0896860820915021

PD患者増加には、やはり、Urgent start PDによるスムーズな導入が鍵になっているようです

Urgent-Start Peritoneal Dialysis: The First Year of Brazilian Experience.

Bitencourt Dias D, Mendes ML, Burgugi Banin V, Barretti P, Ponce D.

Blood Purif. 2017;44(4):283-287.

カテーテル挿入はタイのベッドサイド挿入と同じ方法

http://www.jmatonline.com/files/journals/1/articles/1495/public/1495-4560-1-PB.pdf

腎臓内科医による挿入

局麻下経皮セルジンガー法

正中もしくは傍腹直筋アプローチ

コイル型カテーテル

深部カフのタバコ縫合なし、腹直筋前鞘前面に留置

彼らは72時間以内にHigh volume PD (30ml/kg)の透析液貯留を行うそうです

カテーテルトラブルは多い印象

外科的修復を要したカテーテル位置異常 8/51 15.6%

リーク 4/51 7.8%

興味深いのは、退院後は手技取得まで透析センターで隔日8-10hAPDトレーニングを行うそうです(夜間?)

日本も夜間は透析室ベッド空いてるので、オーバーナイトPDトレーニングもありですね


2020年にCochrane ReviewでもUrgent Start PDを支持するレビューとなっています

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD012913.pub2/epdf/full

 

タイから緊急導入でも問題なくできるという内容の論文

June 10, 2022 Kidney International Reportsにタイのマハラトナコンラチャシマー病院からの2-4週間の血液透析後にPD導入した群とUrgent Start PD群を比較した論文

https://www.kireports.org/article/S2468-0249(22)01434-6/fulltext

この病院は1680床もあるタイの巨大基幹病院のようです

201811月から20202月、緊急透析導入の必要な成人207人を対象

2-4週間の血液透析後にPD導入した群とUrgent Start PD群の比較

導入6週目の死亡率に差はなく、複合的合併症は37% vs 19%、透析関連合併症 24% vs 4% Urgent Start PD群のほうが少なかった

結論として、緊急透析導入もUrgent start PDで問題なくできるということです

カテーテル留置は年間30例以上3年以上の手術経験のあるベテラン腎臓内科医によって局麻下セルジンガー法で留置

タイは痩せているひとが多いのでテンコフ留置は容易だろうなと想像

また、腎臓内科医がカテ留置を行うので、外科コンサルが不要で、緊急導入時に即座にカテ留置できる背景もあるようです

貯留量は8001000mlを仰臥位で開始し、2週間以内に1.5-2.0Lまで貯留量を増加

導入期CAPD5/週とされていています、公的病院なので土日は公務員は働かないのかな?

リークはやはりUrgent Startのほうが7/104と多い(HD→PD2/103)ようですがなんとかなったと書いてありますね

セルジンガーなのでこのくらいのリークはしょうがないでしょうね

ちなみに私どもが最近開発したミニマム創でリークはゼロです

 

アメリカでは2019年にThe Advancing American Kidney Health (AAKH) Executive Order(大統領令)やここ数年のCOVID-19パンデミックによって在宅透析普及が加速しています

スムーズな導入のキーになるのはUrgent start PD(カテ留置から24時間以内の導入)ここ数年のホットトピックになっています

2014年よりUrgent start PDを取り入れてきましたがまったく問題ありませんでした

海外ではオペ室と外科医や麻酔科医のチャージが高額なことも背景にあるようですが、途上国ではベッドサイドでの経皮セルジンガー法が行われている国も多いです

NHS 2014 Data Baseによると英国では腹膜透析カテーテル留置術の比率は下記のようになっていました

外科的                  38.1

腹腔鏡下                 18.1

経皮的                     28.3

 

PDファーストのタイからの経皮セルジンガーカテーテル挿入&Urgent start PDの報告

Urgent start HD → PD よりも Urgent start PD のほうが合併症が少なく臨床成績も良好という報告

Randomized Study of Urgent-Start Peritoneal Dialysis Versus Urgent-Start Temporary Hemodialysis in Patients Transitioning to Kidney Failure. Parapiboon W, et al. Kidney Int Rep.2022

日本は病院資源が豊かで(とくに金銭面での)オペ室使用のハードルが低いので、ベッドサイドにこだわらなくてもよいとは思います

また、日本は医療事故に対する医療訴訟環境が世界最悪なので、医療安全第一がもとめられることもあります

いずれにせよ、Urgent start PDにより短期間のスムーズな導入が可能になることで、PD導入のハードルが下がることは間違いないようです(自験も含めて)

経皮セルジンガー法によるカテーテル留置も症例を選んでおこなってみてもよいでしょう。最近、開発したミニマム創(創長2-3cm)テンコフカテーテル留置術がより有力な手術手技になると考えています。

Refference

CREATING AND MAINTAINING OPTIMAL PERITONEAL DIALYSIS ACCESS IN  THE ADULT PATIENT: 2019 UPDATE

Cochrane Review Urgent Start PD 2020

Feasibility of a break-in period of less than 24 hours for urgent start peritoneal dialysis: a multicenter study Volume 35, pages 1489–1496, (2022) Renal Failure

1.     Analysis of mechanical complications in urgent-start peritoneal dialysis Volume 35, pages 1489–1496, (2022) Journal of Nephrology

2.     Randomized Study of Urgent-Start Peritoneal Dialysis Versus Urgent-Start Temporary Hemodialysis in Patients Transitioning to Kidney Failure Volume 35, pages 1489–1496, (2022) KI REPORT

3.     Feasibility of a break-in period of less than 24 hours for urgent start peritoneal dialysis: a multicenter study Volume 35, pages 1489–1496, (2022) Renal Failure

4.     Urgent-start peritoneal dialysis: Association with outcomes Volume 35, pages 1489–1496, (2022) PDI

5.     Urgent vs. planned peritoneal dialysis initiation: complications and outcomes in the first year of therapy Braz. J. Nephrol. 44(4) Oct-Dec 2022

R   Randomized Study of Urgent-Start Peritoneal Dialysis Versus Urgent-Start Temporary Hemodialysis in Patients Transitioning to Kidney Failure. Parapiboon W, et al. Kidney Int Rep.2022







2025年1月12日日曜日

医師こそ読むべき『透析を止めた日』 松永正訓先生 The Day He Stopped Dialysis" should be read by doctors. Commentary by Dr. Matsunaga.

 2025年1月12日 m3.com医療維新、松永正訓(ただし)先生の連載「けっこう楽しい開業医ライフ」に、【医師こそ読むべき『透析を止めた日』】というタイトルの記事がアップされました。
https://www.m3.com/news/iryoishin/1252044

本質を突いた素晴らしい論評になっています。
私どもの【鹿児島モデル】も紹介していただいています。

以下、100%の共感とともに、本文から引用紹介させていただきます。

医療者はスピリチュアルケアを含んだ緩和ケアの提供が必要。
スピリチュアル・ペインの本質は、「時間性」「自律性」「関係性」の3つの喪失という学説。

「時間性」を失うとは、死によって過去が消えることである。これまで積み上げてきた人生が消えること。そして、当然、未来も消える。過去・未来という時間が消えれば自分が依って立つ現在も消える。

「自律性」を失うとは、自分の身体のコントロールを手放すということ。できないことが増えて、自分が人でなく「物」に近づくと、人は己の存在に価値を見出せなくなる。

「関係性」を失うとは、自分を取り巻く人や物と別れるということである。人間とは人と人、あるいは物との関係性で生きている。また、関係性を築くために生きているとも言える。そのつながりを失うとき、魂は痛みで悲鳴を上げる。

この本を読んで不快になる医師もいるかもしれない。だが、医師であれば誰でもこの本を読んだ方がいい。いや、読むべきであろう。透析は自分には関係ないという考えは持ってはいけない。すべての医師が医療を広く見るべきだ。

いいノンフィクションは、物語る力が強く、多くの人が知らない世界を知らしめ、そして読み手の思考や行動を変容させる。堀川さんは、この本を通じて、ある意味で作家人生をかけて医療界に変革を迫っている。

真に拠り所となる医療者はどこにいるのだろうか。
透析を巡るトータルケアが少しでもよくなってほしいという患者家族の祈り。
われわれはその異議申し立てに真剣に応えなくてはならない。


2024年12月24日火曜日

なぜ、透析患者は「安らかな死」を迎えることができないのか? Why can't dialysis patients die “peacefully”?

 なぜ、透析患者は「安らかな死」を迎えることができないのか?

10年以上におよぶ血液透析、腎移植、再透析の末、透析を止める決断をした夫、その壮絶な最期を看取った経験をもとにノンフィクション作家堀川恵子さんが講談社から新刊を出版されます。 https://amzn.asia/d/9T7g0r4 献本を先程読了いたしました。 取材に基づいた事実の積み重ねによって、極めて正確に問題点をえぐり出してくれています。これまでの透析医療についての出版物とは異なり重厚な考えさせる内容になっています。 腹膜透析という選択肢についても詳細に記載していただきました。鹿児島へも複数回取材にお越しいただき、その内容も詳しく紹介していただいています。 腹膜透析の章では私共もお馴染みの先生方が登場され、裏話や苦労話もあって面白くあっという間に読んでしまいました。 東北医科薬科大学森建文先生 かしま病院 中野広文先生 柴垣医院 柴垣圭吾先生 東京医大 竹口文博先生(監修) さいごに、日本腎臓病学会理事長・東大教授の南学正臣先生が日本の現状を俯瞰された解説を書かれています ぜひ一読をお勧めいたします <目次> 序章 《第一部》 第1章 長期透析患者の苦悩 第2章 腎臓移植という希望 第3章 移植腎の「実力」 第4章 透析の限界 第5章 透析を止めた日 《第二部》 第6章 巨大医療ビジネス市場の現在地 第7章 透析患者と緩和ケア 第8章 腹膜透析という選択肢 第9章 納得して看取る 献体――あとがき 解説 南学正臣(日本腎臓学会理事長)


シリコーンカテーテルとヨードについて テンコフカテーテル出口部のイソジン消毒に関する考察 Silicone Catheters and Iodine. Considerations for Iodine Disinfection of Tenchoff Catheter Exit Site.

私どもは、下記のような感染リスクの高い患者には、イソジンゲルを出口部処置にルーチンで使用 しております 低栄養・ 緊急導入・ 高度尿毒症・ 糖尿病・ ステロイド・ 超高齢など しかしながら、テンコフカテーテル添付文書に、下記のように書かれており、イソジンの使用は大丈夫なのかと、よ...